写真:塚本 隆司
地図を見る「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」は「改正文化財保護法」施行後初の指定文化財を活用したホテルだ。
場所は、日本民俗学の父・柳田國男の出身地であり「妖怪が住む町」として人気の兵庫県神崎郡福崎町。約300年前(江戸時代中期)に建てられた兵庫県指定重要有形文化財「大庄屋(おおじょうや)三木家住宅」と大正時代に建てられた国登録有形文化財「旧・辻川郵便局舎」をリノベーションし、2020年11月にオープンした。
写真:塚本 隆司
地図を見る大庄屋とは、代官の下でいくつかの庄屋を束ね領内の行政を担った家であり、三木家は姫路藩からこの地「福崎」を任されていた。福崎は、古くから東西南北に街道が通るうえ、市川の水運もあり、交通・物流の要衝であったことを思えば、特に重要な役目だったことが想像できる。
写真は「大庄屋三木家住宅」の主屋の内部。日月祝日のみ、見学ができる。
ホテルとして改装された部屋には、当時のままの名称が使われ、エグゼクティブスイート「離れ」やスーペリア「副屋」、蔵デラックス「内蔵」、蔵スタンダード「角蔵」、蔵カジュアル「米蔵」と名付けられている。酒蔵は、レストランに改装され、こちらも当時の姿が生かされ趣がある。
指定文化財特有の「壁や柱には穴を開けられない」などの制約があるなか、工夫を凝らした設備は、興味を持って見てもらいたいところだ。
写真:塚本 隆司
地図を見るこの三木家と交流があった人物のひとりが民俗学者・柳田國男だ。「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」北側の辻川山公園には、移築された柳田國男の生家(本人いわく「日本一小さい家」)がある。彼は11歳の時に三木家に預けられた。
この時のことを著書『故郷七十年』に「同家の裏手にいまも残っている土蔵風の建物の2階8畳には、多くの蔵書があった(中略)読み放題に読んだのだが、私の雑学風の基礎はこの1年ばかりの間に形造られたように思う。」と記している。
多くの蔵書があった土蔵風の建物は、蔵デラックス「内蔵」のこと。國男少年は、写真の離れ(エグゼクティブスイート「離れ」)の2階で読書にふけっていたようだ。いわば、日本民俗学の原点が、このホテルということになる。
写真:塚本 隆司
地図を見る指定文化財をリノベーションしたホテルとは、どんな感じなのか気になるところだろう。
客室は、三木家住宅側に和室が5部屋。隣接の旧・辻川郵便局舎(妖怪 BOOK CAFE)に洋室が2部屋ある。
基本は2人部屋だが、部屋によってはソファベッドや敷布団を使うことで、宿泊者数を増やすことが可能だ。
まずは、三木家住宅側から紹介しよう。
写真は、1697年に建てられた最も古い建物の蔵デラックス「内蔵」。重要書類の保管場所となっていた立派な蔵だ。天井の高さや古い梁(はり)がそのままむき出しになっている。歩けば、床がミシリとしなるのも、歴史が奏でる音といえるだろう。
写真の蔵スタンダード「角蔵」は、元は道具小屋だったとは思えない趣があり、別荘気分で利用ができそうだ。明かり取りの窓も、その機能を生かしつつ残されている。
蔵カジュアル「米蔵」は、床から天井まで届く本棚に囲まれた部屋。エグゼクティブスイート「離れ」は、部屋数があるのでスイートルームの位置づけだ。戸を一枚外せば、スーペリア「副屋」と合わせて10名が一緒に泊まることができる部屋になる。
どの部屋にもテレビや時計はない。替わりに、本はいっぱいある。蔵書数は約500冊。柳田國男の出身地であることや妖怪の住む町として認知されている福崎町らしく民俗学から空想の生き物、都市伝説や怪談、妖怪、お化け、日本の伝統的な暮らしについてなど、普段目にすることが少ない本がそろえられている。
セレクトしたのは、東京六本木の名書店「文喫(ぶんきつ)」。本のプロがオススメする、この場所で読むのにふさわしい本たちだ。気に入った本があれば、その場で購入することもできる。
写真:塚本 隆司
地図を見る文化財に泊まる難点は、内装はキレイになっているが、建物自体は古いため、隙間風が吹くこともあるということ。古き日本建築を体感できるのが、指定文化財に泊まる魅力として捉えて欲しい。
トイレやバスは、それぞれの部屋に最新の設備があるので、ご心配なく。三木家住宅側の風呂は、全室ヒノキ風呂だ。
写真:塚本 隆司
地図を見る大正12(1923)年に建てられた国登録有形文化財「旧・辻川郵便局舎」は、「妖怪 BOOK CAFE」に生まれ変わる。2021年の春頃に開業予定だが、先行してホテルのみ開業した。フロント業務をはじめ運営は「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」だ。
写真:塚本 隆司
地図を見る客室は2階に2部屋(カジュアル「〒201」、カジュアル「〒202」)ある。洋館風の外観と同じく、日本的ではない魅力にあふれた内装だ。女子旅などオシャレに過ごすのにちょうど良い雰囲気。窓枠やガラスも当時のままなので、外への音漏れには注意が必要だ。
写真:塚本 隆司
地図を見る1階の「妖怪BOOK CAFE」は2021年春オープン予定だが、現在は宿泊者専用で利用ができる。ドリンクメニューなどはないが、天狗や河童、座敷童など妖怪にまつわる書籍約400冊。イス席だけではなく、Yogiboのソファーなどが用意されているので、読書好きにはたまらない。
食事場所は、三木家住宅の酒蔵をレストランホールに、味噌部屋を厨房(写真奥)として改装。三木家では、酒や味噌も造っており、規模の大きさに驚かされる。
写真:塚本 隆司
地図を見る天井を見上げれば、当主が使っていた駕籠が残されている。柱にも注目だ。建物の改修を行った履歴など、歴史が刻まれている。
写真:塚本 隆司
地図を見る壁に掛けられた行燈(あんどん)も、一部は当時のまま再利用。壁も当時のままだ。古民家を改装したレストランよりも、指定文化財を活用することの難しさが、細かなところから実感できる。
「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」は、宿泊以外にも結婚式などを開くことができる。300年以上の歴史を持つ日本家屋で執り行う和装人前式、レストランでのパーティーも可能だ。
写真:塚本 隆司
地図を見る「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」は、レストランも自慢だ。フレンチシェフが地産地消をコンセプトに腕を振るうメニューは、厳選した地元食材の持つ味わいを引き出してくれる。
写真は朝食メニューの一例。福崎特産のもち麦を混ぜ合わせたご飯、みそ汁にも福崎特産のあさぎり味噌を使用。卵や野菜も地元の生産農家から取り寄せている。
写真:塚本 隆司
地図を見る夕食も同様だ。写真は、生ハムとモッツァレラチーズのバジルあえとフォアグラとトリュフのテリーヌブリオッシュ添え。野菜類は福崎で採れたものを使用。一部のハーブなどは、敷地内で採れたものもある。
メインディッシュも肉や魚など、旬の食材を生かすメニューが考えられているので楽しみだ。2021年5月には、ランチ営業も予定されているので、公式サイトをチェックしておきたい。
「なつかしくて あたらしい 日本の暮らしをつくる」というNIPPONIAの精神そのものが「NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館」でも感じとれる。
にぎやかで楽しい旅もいいが、自分時間を大切に、ひととき日常を忘れ、大好きな本に囲まれた休日に浸れるホテルだ。妖怪が住む町のもつ、人の世と異界との狭間にいる感じもいい。柳田國男が幼少期を過ごした福崎の町を歩いてみるのもいいだろう。他では過ごせない、ここだけの休日を得られることは、間違いない。
2020年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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