東京・大倉集古館で古城の悲劇が語る特別展「海を渡った古伊万里」

東京・大倉集古館で古城の悲劇が語る特別展「海を渡った古伊万里」

更新日:2021/02/25 15:20

東京・虎ノ門の大倉集古館では、特別展「海を渡った古伊万里〜ウィーン、ロースドルフ城の悲劇〜」を2020年11月3日(火祝)から2021年1月24日(日)まで開催。
日本初公開の、ロースドルフ城の陶磁器コレクションは戦争遺産でもあり、平和へのメッセージが込められています。合わせて日本の磁器の名品、磁器の国際交流も紹介します。

※2021年2月20日(土)から3月21日(日)まで再開。

世界を魅了した古伊万里の物語

世界を魅了した古伊万里の物語
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東京・虎ノ門の大倉集古館はホテル「The Okura Tokyo」の一角にあります。2019年にホテルとともにリニューアルされた同館では、特別展「海を渡った古伊万里〜ウィーン、ロースドルフ城の悲劇〜」を2020年11月3日(火祝)から2021年1月24日(日)まで開催。

ロースドルフ城には、かつて日本の古伊万里を中心に、多くの陶磁器が所蔵されていました。しかし、第2次世界大戦の悲劇により所蔵品の多くが破壊されてしまいます。展覧会では専門家によって調査、研究、修復された陶片を通してコレクションの全貌を明らかにします。

世界を魅了した古伊万里の物語
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1階では江戸時代から明治期の磁器の歴史を佐賀県立九州陶磁文化館の所蔵品を中心にたどります。初めての磁器は有田(佐賀県)で生まれ、伊万里港から輸出されたため「伊万里焼」と呼ばれ、江戸時代のものは「古伊万里」と呼ばれます。日本磁器は「金よりも価値がある」とされ、ヨーロッパの王侯貴族が富と力の象徴として熱心に集めました。

ローストドルフ城のコレクションの中心も古伊万里でした。この高さ40センチほどの古伊万里の壺は色絵付けの上に金色で模様を描く「金襴手(きんらんで)」技法で花や獅子を施し、中心部には亀甲型の透かし彫りがあります。蓋を失い、欠けてはいますが、豪華で艶やかな姿です。

《色絵唐獅子牡丹文亀甲透彫瓶》(部分修復)有田窯 1700-1730 年代、ロースドルフ城

世界を魅了した古伊万里の物語
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1階の最後には「万国博覧会と有田焼」をテーマにしたケースに輸出用の有田焼が並んでいます。図柄が細かく描き込まれた華やかなもので、19世紀後半のロンドン、パリ、ウィーンの万国博覧会に出展され高い評価をうけました。

第1部「日本磁器誕生の地-有田」展示風景

床一面に陶片1万点

床一面に陶片1万点
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2階にはロースドルフ城で現在も使われている作品や、破壊された陶片、修復した磁器を展示しています。城主・ピアッティ家では18世紀頃から磁器を集めて城内を飾っていました。ところが、第2次大戦末期に旧ソビエト軍に城を占領されてしまいます。隠していた磁器は銃で撃ったり、蹴ったりして、破壊されてしまいました。

床一面に陶片1万点
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ロースドルフ城の「陶磁器の間」には1万点以上の陶片が床一面に展示され、戦争遺産として75年間も公開されてきました。2015年の茶会で、ピアッティ夫妻と茶道家・保科眞智子さんの出会いから「古伊万里再生プロジェクト」が始まりました。日本の研究者と修復家が陶片を研究・復元してコレクションの全貌を明らかにし、歴史・文化をとおして平和へのメッセージを伝えたい想いが、この展覧会につながったのです。

第2部「海を渡った古伊万里の悲劇-ウィーン、ロースドルフ城」展示風景

床一面に陶片1万点
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ひときわ目を引くのは右側の白い豪華な壺です。高さ約50センチの壺には立体的に草花が付けられ、左肩に春の女神、右肩に噂の女神、中央にはドイツ・ドレスデンのザクセン王の横顔があります。ザクセン王から贈られたと伝わっています。

左:《白磁壺「四大元素・地」(組み上げ修復)》マイセン窯 20世紀初頭 
右:《白磁器大壺(組み上げ修復)》ドイツ・マイセン窯 20世紀初頭 
ともにロースドルフ城

陶片をつなぐ再生のストーリー

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専門家による修復のようすや道具も展示しています。ピアッティ家は陶片をすべて元通りに直すことは望んではいません。陶片の存在が平和へのメッセージになるからです。

作品名のあとに、「組み上げ」とあるのは、元の形がわかるようにつなぎ合わせたもの、「修復」はつなぎ合わせて、欠けたところを埋めて安定させた状態を表しています。いずれの場合も元の陶片に戻すことができるように、修復した場所がわかるようにしています。

「修復」の例は右の皿、陶片の汚れをていねいに落とし、欠けた部分を補い、絵柄を加えました。全体に花唐草を施し、鶴と松、獅子と牡丹を配した、格調高い豪華なものです。

《色絵松竹梅鶴文八角大皿(修復)》有田窯 1700-1720年頃 ロースドルフ城

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「組み上げ」の例は、1階に展示された高さ約30センチの華やかな器で、古伊万里に似せてヨーロッパでつくられたと考えられます。

《色絵花卉美人文盆器(組み上げ・部分修復)》ヨーロッパ 18ー19世紀 ロースドルフ城

陶片をつなぐ再生のストーリー
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手前のバブーシュ型の置き物は、調査中に前方部がワイン蔵で見つかり、城の「陶片の間」にあった後方部と合わせました。前方部にはドイツ・マイセンに近くに現存する城が描かれています。なお、バブーシュはモロッコの革製スリッパでかかとを踏んではく履き物のこと。

左奥の鉢やカップ・ソーサーのセットは金泥で描かれています。コーヒーカップには、バブーシュのように風景画がありました。19世紀には景勝地などを描いた食器セットもつくられていました。

左上:《藍釉金彩花卉文三足鉢、碗皿(組み上げ修復)》マイセン窯 1860-1880年 
右下:《藍釉金彩風景文ハブシーシュ形置き物(修復)》マイセン窯 19世紀前半 
ともにロースドルフ城

国際色豊かなコレクション

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コレクションの産地がヨーロッパ各地にあることも特色のひとつ。左の3件はオランダのデルフト窯、絵柄には中国や日本の影響も見られます。右の2件はオーストリアのウィーン窯、水差しには日本風の梅、皿には西洋風のバラが対照的です。隣りにはイギリスのウエッジウッド窯、デンマークのロイヤルコペンハーゲン窯も並んでいます。

左から:《色絵草花蝶文皿》(修復)デルフト窯 17世紀後半-18世紀 
《藍花卉文八角瓶》(2件)デルフト窯 18世紀 
《色絵梅樹文水注》ウィーン窯 19世紀 
《色絵花卉文皿》ウィーン窯 19世紀 
すべてロースドルフ城

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中国・景徳鎮では古伊万里の金蘭手をモデルにした「チャイニーズイマリ」を西洋に輸出しました。直径約30センチの皿は花や葉が動きのある図案です。西洋では陶器に金属などを付けて本来と異なる使い方をすることがあり、この皿の縁や脚も金属の飾りがつけられました。

《五彩花卉文皿》(修復)景徳鎮窯 18世紀前半 ロースドルフ城

城主が選んだ可憐なデザイン

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左の壺は上部を切り取り、脚部を付けてランプに仕立てられました。胴のハート型の窪みに鶏の親子がいるデザインは日本で海外向けにつくられたものです。右の2件は蓋と脚が追加されています。

左から、《色絵花鳥人物文瓶》有田窯 1690-1720年 ロースドルフ城
《色絵花鳥文瓶》有田窯 1690-1730年 今右衛門古陶磁美術館
《色絵花鳥文瓶》(2件)有田窯 1690-1730年 佐賀県立九州今陶磁文化館

城主が選んだ可憐なデザイン
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蓋だけが割れずに残ったものもたくさんあります。レースのような縁飾りや摘まみにあしらわれたバラなどが愛らしく、元はどんな可憐な姿だったのかと想像してみるのも楽しいでしょう。

色絵蓋物、碗皿(破片)ウィーン窯 19世紀 ロースドルフ城

城主が選んだ可憐なデザイン
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地下1階のミュージアムショップには特別展に因んだグッズも多く、オリジナルの帯締めや金襴手を施した大皿をモチーフにしたエコバッグはファッショナブルでおすすめです。

この展覧会は、磁器を所蔵する2か所への巡回が予定されています。
愛知県陶磁美術館 2021年4月10日〜6月13日  
山口県立萩美術館・浦上記念館 2021年9月18日〜11月23日

The Okura Tokyoで展覧会の余韻を楽しむ

大倉集古館は2019年にThe Okura Tokyoとして新たに出発したホテルの一角にあります。ホテルでもアートを感じる豊かな空間をゆったりと楽しむことができます。

特別展の会期に合わせたプランも用意されています。
オールデイダイニング「オーキッド」は、オークラ プレステージタワー5階にあり、オーストリアの本格料理とワインのスペシャルメニューがいただけます(11月30日まで)。同41階のバーラウンジ「スターライト」では、オリジナルレシピのザッハトルテを堪能できます。(2021年1月24日まで。除外日2020年12月18日〜25日、31日、2021年1月1日〜3日)また、特別展のための期間限定宿泊プランもあります。

お申込み・お問合せ:The Okura Tokyo 営業企画部 企画広報課
電話番号:03-3224-6726(月〜金10:00〜17:00 / 祝日を除く)

2021年2月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2020/11/02 訪問

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