阪急・山本駅北出口のすぐ西に、接ぎ木の技法を完成して宝塚を植木の名産地に押し上げた功労者・坂上(頼泰)善太夫の顕徳碑があります。その脇を流れ猪名川へとそそぐ川が最明寺川です。鎌倉第5代執権・北条時頼が出家後に最明寺入道を名乗り、諸国を遍歴し、この地で庵を結んだことから最明寺という地名がつけられたと言われています。現町名の平井は、こちらも古く鬼退治伝承を持つ摂津守・平井(藤原)保昌の名にちなんだものです。
この川は小流れながら、しばらくさかのぼると見事な滝に出会います。落差15mほどの滝ですが、黒々とした岩肌をすべる清冽きわまりない飛瀑には圧倒されます。
この滝のやや手前には朱塗りの橋があり、渡ると朝鮮半島のシャーマニズムを今に伝える在日韓国・朝鮮寺の宝教寺があります。
この川の流域にはこうした寺がなんと7つもあります。
ちなみに、大阪の生駒山系の渓流沿いにも、在日韓国・朝鮮人の人達が心のよりどころとする同様の寺院が63寺もあるというのも驚きです。
この寺は真言宗に属していますが宗教法人ではなく、釈迦、不動、弘法大師を祀る本堂と妙見信仰に近い七星堂、地蔵祠や山の神、水の神=滝、そして、活動の中心である巫者(シャーマン)が神がかりして神を降ろす賽神(クッ)の儀礼を行なう賽神堂が建ち並んでいます。
滝からさらにゆるやかな渓流沿いの道を20分ほどさかのぼると大日十天不動石像があり、さらに10分ほど登ると車道に出て満願寺に至ります。
奈良時代、聖武天皇の勅願により、勝道上人が創建したと伝えられ、平安中期に源満仲が帰依し源氏の祈願所として栄えた古刹です。
広大な境内には、坂田金時の廟もあり、本堂の瓦には鬼の紋がずらり並んでいるのがとても愉快です。
本尊は木造の千手観世音菩薩。そのほか、石造の九重塔(重文)をはじめ多数の文化財が安置されています。
現在霊園となっている満願寺奥の院址を巡って、そのままゴルフ場と霊園の間の山道をたどると、おのずと道は開けてきて北雲雀きずきの森公園へ出ます。
2010年5月1日にオープンしたこの公園は、2006年に宝塚市が自然緑地として取得。それまでゴルフ場やレジャー施設で荒れていた森を地元住民らが整備した市民管理型の緑地です。
みはらしの広場からは、猪名川沿いの町並みの向こうに生駒山系やあべのハルカスも望めます。
ここまでの道すがら、出会ったきのこは20余種、かたつむり5種、蝶や蛾も8種、苔やシダ類、山野草に至っては無数に近く、加えて甘いナガバモミヂイチゴなどを口に含み、コジュケイ、オオルリ、夏ウグイスなどのさえずりのシャワーを浴びながらの数時間の散策は至福の時と言えます。
ここからは花屋敷の町を抜けて20分ほどで阪急川西能勢口に出ます。
写真は、カブト虫の匂いを発する可憐なニオイコベニタケ。
宝塚市と川西市の境界を縫うように流れる最明寺渓谷の小道は、おとなう人も稀で秘境と呼ぶにふさわしい静けさが残されています。
阪急山本駅は、大阪梅田、あるいは宝塚駅からいずれも電車で20分余りのところにあります。ここから最明寺川に沿う道は、歴史ファンならずとも、都塵にまみれ、ともすれば見失いがちな心身のバランスを回復するのに最適の、贅沢きわまりない秘密の散歩道です。
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(2024/10/6更新)
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