洗足池のほとりに佇む 東京「大田区立勝海舟記念館」

洗足池のほとりに佇む 東京「大田区立勝海舟記念館」

更新日:2024/02/10 15:40

今村 裕紀のプロフィール写真 今村 裕紀 旅先案内人
幕末から明治にかけて激動の世を駆け抜けた勝海舟の記念館が、東京都大田区、洗足池のほとりにあります。池上本門寺での新政府軍との会談の直前、海舟は洗足池を経由して臨みました。その際、海舟は洗足池を気に入り、後に、この地に別荘を建て、埋葬の地と定めました。海舟没後、120年の歳月を経て、その生涯と偉業が、海舟が愛した洗足池のほとりに記念館として結実しました。
国登録有形文化財である「旧清明文庫」を保存・活用して開館した「大田区立勝海舟記念館」をご紹介いたします。

「旧清明文庫」から「勝海舟記念館」へ

「旧清明文庫」から「勝海舟記念館」へ

写真:今村 裕紀

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江戸無血開城のために、池上本門寺での新政府軍との会談に臨む途中、海舟は洗足池に立ち寄りました。その際、海舟はこの地を気に入り、赤坂氷川の自邸とは別に、農家風のこじんまりとした建物を構えて、「洗足軒」と名付けました。

海舟は、この別荘で幕末以来の旧友たちと洗足池の自然を愛でたり、詩作でおだやかに時を過ごしたと言われています。

「旧清明文庫」から「勝海舟記念館」へ

写真:今村 裕紀

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海舟没後、「洗足軒」とその近くの土地は、海舟の遺蹟の保存などを掲げた財団法人清明会に寄贈されました。清明会は、「洗足軒」の隣に同会の拠点施設として「清明文庫」を新築。その建物の外観や内装には、ネオ・ゴシックやアール・デコの建築様式が取り入れられていて、昭和初期の貴重な建物として2000(平成12)年に国の登録有形文化財となりました。

一方、「洗足軒」は戦後に焼失してしまい、残念ながら、現存していません。

「旧清明文庫」から「勝海舟記念館」へ

写真:今村 裕紀

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清明会によって設立された「清明文庫」は、戦後、東京府に寄付された後、株式会社学習研究社の所有となり、その際、「鳳凰閣」という名に改称されました。こうした変遷を辿ったのち、この建物は、2012(平成24)年に大田区の所有となり、2019(令和元)年に、勝海舟の思いと地域の歴史を伝える「勝海舟記念館」として開館しました。

「勝海舟記念館」1階展示室 海舟の生涯を辿って

「勝海舟記念館」1階展示室 海舟の生涯を辿って

写真:今村 裕紀

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江戸本所で幕府の下級役人である勝家に生まれた勝麟太郎(海舟)は、黒船来航を機に「海防意見書」を提出し、これをきっかけに幕府に登用されました。長崎海軍伝習所に参加して、オランダ式海軍技術を習得し、幕府軍艦・咸臨丸で太平洋横断を成就。アメリカの社会をその目で見た海舟は、帰国後、神戸に海軍操練所を開き、幕府・諸藩の「一致の海軍」創設を目指しました。

また、新政府軍が江戸に進軍した際には、西郷隆盛らとの会見により「江戸無血開城」を実現。こうした業績は広く知られていますね。

「勝海舟記念館」1階展示室 海舟の生涯を辿って

写真:今村 裕紀

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「勝海舟記念館」1階の展示室は、いくつかのコーナーに分かれています。

常設展示室を入ってすぐのところにある、丸い壁に囲まれた「海舟ブレイン」は、海舟が何を考えてきたかを伝えるコーナーです。「ことを成し遂げる」「人生哲学、生き方、処世術」「人物評」「国のあり方」の4つの項目について、海舟の言葉が音声とともに正面の壁に写し出されます。

海舟の生涯を展示した「海舟クロニクル」。海舟の一生を関連する資料や写真、解説とともに辿ることができます。併せて、「海舟ブレイン」の丸い壁の外側には、海舟の生涯が、世の中の動きと対比しながら、ところどころに海舟の言葉とイラストを添えて描かれていて、わかりやすく紹介されています。

「勝海舟記念館」1階展示室 海舟の生涯を辿って

写真:今村 裕紀

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また、「時の部屋」では、咸臨丸が大海原を進むCG映像が展開されていて、思わず、咸臨丸のなかに引き込まれて、大海原を激しく揺れ動く臨場感あふれる体験をすることができます。見終わったあとには、自ずと海舟たちの苦難に思いが及びます。

「海舟全国行脚」では、海舟関連の史跡情報がモニターで紹介されていて、日本全国にある海舟ゆかりの史跡を写真と文章で解説しています。

今に残る資料をもとに、文字による解説はもとより、写真やイラストや映像によって海舟の功績が可視化されていて、激動の世を駆け抜けた海舟の実像にぐっと近づくことができます。ぜひ、じっくりと観覧してみてください。

「勝海舟記念館」2階 3つの展示ゾーン

「勝海舟記念館」2階 3つの展示ゾーン

写真:今村 裕紀

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階段を上ると、正面に海舟の像が迎えてくれます。これは1950(昭和25)年以前に本山白雲によって、海舟の晩年の姿をかたどって作成された胸像です。

本山白雲は、高知県桂浜の坂本龍馬像の作者としても知られています。また、この胸像が立つスペースは、貴賓室として使われていた当時の造りを復元した部屋で、床は他の部屋には見られない、木材が美しく組み合わされた寄木張りになっています。

「勝海舟記念館」2階 3つの展示ゾーン

写真:今村 裕紀

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貴賓室の隣にある部屋は講堂です。1937(昭和12)年、海舟を師と仰ぐ徳富蘇峰が、海舟と西郷隆盛の事跡を振り返る内容の講演会を催すなど、ここでは様々な講義や講演会が行われました。

現在、この講堂は、大型モニター映像展示のほか、「海舟ゾーン」「清明文庫ゾーン」「洗足池ゾーン」の3つの展示ゾーンに分かれています。写真手前に写っている模型は、「洗足池ゾーン」の「洗足軒」のジオラマです。そのほかにも「海舟ゾーン」では、タッチパネルで答える海舟に関するクイズなどが、また、「清明文庫ゾーン」では、清明文庫の模型や昭和の時代の講演の様子など、それぞれのゾーンからゆかりの情報が発信されています。

晩年の勝海舟と二つの詩碑

晩年の勝海舟と二つの詩碑

写真:今村 裕紀

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晩年の海舟は、政府からの依頼により、幕府海軍についてまとめた『海軍歴史』をはじめ、多くの歴史書の編さんに注力しました。写真は海舟74歳のときに赤坂氷川の自邸の庭で撮られたもの(の複製)です。

この写真は、1階の常設展示室を入ったすぐ左側に展示されています。顔を近づけて見れば、老いて好々爺然とした風貌を呈しながらも、幕末から明治を駆け抜けた英傑としての鋭利な面影が窺えます。

晩年の勝海舟と二つの詩碑

写真:今村 裕紀

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「勝海舟記念館」を出て、洗足池沿いに右手に少し回り込んだところに、二つの詩碑が建っています。ひとつは「南洲留魂詩碑」(写真手前左)で、1877(明治10)年に西南戦争で横死した南洲(西郷隆盛)を悼み、勝海舟が南葛飾郡木下川に建立した詩碑で、1913(大正2)年にこの地に移設されました。石碑の表には西郷の詩が、裏面には海舟の西郷への述懐が刻まれています。

もうひとつの詩碑は、「南洲海舟両雄詠嘆之詩碑」(写真奥)で、南洲(西郷隆盛)と海舟の両雄を讃えた有志が設立した詩碑で、石碑の面には海舟を師と仰ぐ徳富蘇峰の詩が刻まれています。

この詩碑のすぐ近くには、ここを埋葬の地とした勝海舟が眠っています。ぜひ、その墓所の前で、手を合わせて海舟に語りかけてみて下さい。

勝海舟が愛した洗足池とその思いは

勝海舟が愛した洗足池とその思いは

写真:今村 裕紀

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この地域の古い地名は千束でした。のちに身延山久遠寺から常陸へ湯治に向かう途中の日蓮が、この池のほとりで休息をして、足を洗ったという言い伝えから、千束の一部が洗足となり、この池も洗足池となったとの説があります。

池の周囲は1.2キロほどで、緑豊かな洗足池公園として、太鼓橋や神社、弁財天などが点在して、散策に適したコースになっています。池や周囲の樹木に目をやれば、季節ごとに飛来するさまざまな野鳥を観察することができます。休日には多くのボートで池がにぎわいます。

勝海舟が愛した洗足池とその思いは

提供元:大田区企画経営部広聴広報課

https://www.city.ota.tokyo.jp/ota_photo/nendai/h20…

洗足池に掛けられた木製の三連太鼓橋「池月橋」では、5月の満月が近い夜に、人間国宝 賽山左衛門一門による和楽器の演奏会「春宵の響」が開催されています。満月を背に「池月橋」から横笛の調べが奏でられ、幻想的な夜を体験することができます。

また、7月中旬には、池のほとりにある御松庵妙福寺により、灯籠流しが行われます。数百の灯籠が水面(みなも)を静かに漂い、招魂された先祖の魂が供養されます。灯籠に託した人々の追悼の思いを海舟もきっと穏やかに見守っていることでしょう。

勝海舟が愛した洗足池とその思いは

写真:今村 裕紀

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幕末から明治を駆け抜けたひとりの人間の業績の記録が、ここ「勝海舟記念館」にあります。そのひとりの人間の生きた軌跡とあらためて向き合ってみませんか。そうして、その人間が愛した洗足池を散策してみれば、なぜ、ここを永遠の眠りの地と定めたのかがわかるかもしれません。ぜひ、訪れてみて下さい。

勝海舟記念館の基本情報

住所:東京都大田区南千束2-3-1
電話番号:03-6425-7608
開館時間:午前10時から午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館日
入場料:一般300円、小中学生100円、団体20名以上・65歳以上の方2割引
アクセス:東急池上線洗足池駅下車、改札を出て正面の中原街道を渡り、右手に進んで徒歩約6分

2024年2月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2023/10/20−2024/01/31 訪問

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