写真:乾口 達司
地図を見る世界文化遺産「慶州歴史遺跡地区」の一地区である「南山地区」は、慶州の旧市街地南方に広がる山岳地帯。古来、山岳信仰の聖地として崇められており、判明しているだけでも100カ寺を超える古代寺院が発見されています。現在、その多くは廃絶していますが、それぞれの寺院が有していた石仏や石塔が残り、往時の繁栄をしのぶことができます。
そんな南山を代表する石仏が、統一新羅時代の作である「七仏庵磨崖仏像群」。高さ5メートル、幅8メートルの巨大な岩に刻まれた摩崖仏三尊と、柱状の岩に刻まれた四面仏とを合わせて七体の仏像が刻まれています。
写真:乾口 達司
地図を見る現在も多くの参拝者が七仏庵を訪れており、統一新羅時代の信仰が21世紀の今日にも息づいていることがわかります。
写真:乾口 達司
地図を見る境内にはささやかなお堂もあり、山岳信仰の名残りをとどめています。
写真:乾口 達司
地図を見る七仏庵を訪れたら、磨崖仏像群の頭上を見上げてください。はるか上方に何か柵のようなものが見えるはず。実は、七仏庵の真上にも慶州を代表する石仏が存在するのです。
写真:乾口 達司
地図を見る七仏庵から岩山を登ること、約10分。断崖絶壁に刻まれた仏像が現れます。「神仙庵磨崖菩薩半跏像」です。
巨石の表面に刻まれたその像高は約1.4メートル。頭上に三面宝冠をかぶり、右手に花瓶を手にした菩薩像ですが、注目したいのは、雲が台座を支えていること。近年になってようやく転落防止用の安全柵が設けられましたが、それ以前は文字どおりの断崖絶壁に刻まれていることからも、仏師が雲に乗り、天空に浮かぶ菩薩の姿を描き出そうとしたことがわかります。
写真:乾口 達司
地図を見るしたがって、眺望は抜群。はるか遠くに見えるのは、吐含山。韓国仏教美術の至宝として名高い「石窟庵」のある山です。
安全柵があるとはいえ、柵から身を乗り出すと転落の危険があるため、足元に注意しながら、絶景をご覧ください。
<七仏庵磨崖仏像群・神仙庵磨崖菩薩半跏像の基本情報>
住所:慶尚北道慶州市南山洞
アクセス:バス停「統一殿」より徒歩約1時間30分
写真:乾口 達司
地図を見る石塔の代表格は「茸長寺谷三層石塔」。その名のとおり、かつて存在した茸長寺の石塔であり、その高さは4.5メートル。崖にせり出すようにして屹立しています。その特徴は、露出した自然の岩盤の上に人工の塔が築かれていること。
尹京烈著/李京龍訳『古都慶州 神秘中の南山』(慶州市刊/1994年)によると「茸長寺の石塔は海抜400mほどの高さにある岩そのものを下層基壇と見なした三層石塔であるから、岩山はまさに8万由旬の須彌山ということができる。したがって岩山の頂上は四王天、1つ目の基壇はとうり天ということになり、その上に積み重なった塔身は佛の天界を表しているのである」とのこと。
山全体が塔の基壇となっているかのように見立てられており、自然と人工とが絶妙に調和しているさまからは、雄大な自然環境に対して畏怖・畏敬の念を抱いていた当時の信仰者の思いが伝わってきますね。
写真:乾口 達司
地図を見るどうですか、このスケールの大きさ!その堂々たる姿こそ、茸長寺谷三層石塔ならではの魅力です。
写真:乾口 達司
地図を見る三層石塔の下方には、如来坐像も残されています。残念ながら首から上が欠損していますが、何重にも重ねられた台座の形式が珍しく、必見です。
こちらもかつて存在した茸長寺の遺構です。
<茸長寺谷三層石塔の基本情報>
住所:慶尚北道慶州市茸長谷
アクセス:バス停「茸長谷」より徒歩約1時間30分
写真:乾口 達司
地図を見る南山にはたくさんの渓谷が形成されており、それぞれの渓谷沿いに数多くの寺院が建立されました。南山の西側にある三陵谷も、その一つ。統一新羅時代の作である「三陵溪谷磨崖釈迦如來坐像」は、三陵谷にある石仏の代表格です。
巨大な自然岩の表面に彫られた如来坐像の像高は、約6メートル。南山に見られる座仏のなかでは最大の規模を誇ります。下界を見下ろすかのように彫られた構図ともども、その雄大さには圧倒されますよ。
写真:乾口 達司
地図を見る「三陵渓谷線刻六尊」は、巨石の表面に刻まれた6体の仏像から成ります。仏像を線刻によって表しているのは、南山では珍しい造型です。
写真:乾口 達司
地図を見るなかには風化し、視認しづらくなっている石仏も少なくありません。登山道沿いに巨石があったら、その表面をじっくりご覧になってみてください。ひょっとすると、石仏が刻まれているかも知れませんよ。
<三陵谷の石仏群の基本情報>
住所:慶尚北道慶州市三陵谷
アクセス:バス停「三陵谷」より徒歩約1時間
写真:乾口 達司
地図を見る南山の東側に位置する南山里にも、幾つかの石塔が見られます。
写真は「南山里三重石塔」と呼ばれる双塔ですが、一般的な形式の西塔に対して、手前の東塔は基壇や笠の部分をレンガ積みのように見せた造りとなっており、その違いに特徴があります。
写真:乾口 達司
地図を見る南山をめぐると、アカマツがたくさん生えていることにお気づきになるでしょう。アカマツが栄養に乏しい岩場でも自生できることを踏まえると、石仏・石塔の宝庫である南山が、いたるところで岩盤を露出させた岩山であることがわかります。
写真:乾口 達司
地図を見る日本よりもはるかに登山人口の多い韓国ゆえ、危険な岩場には階段が設けられていたり、転落防止用のロープがわたされたりと、登山者の安全と利便性を考えた整備がなされています。したがって、比較的、軽装でも登りやすい山ですが、場所によっては道標も少ないため、南山を歩く際は気を緩めず、慎重に歩を進めてください。
<南山里三重石塔の基本情報>
住所:慶尚北道慶州市南山洞
アクセス:バス停「統一殿」より徒歩約10分
南山に点在する石仏や石塔の数々がいかに魅力的か、おわかりいただけたでしょうか。慶州の旧市街地からバスに揺られること、20分程度で登山コースの入口までたどり着けるため、日帰りでも充分に南山を堪能することができます。南山をめぐり、古代の山岳信仰を体感してみてください。
2024年2月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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この記事を書いたナビゲーター
乾口 達司
これまでは日本文学や歴史学の世界で培った見識にもとづいて数多くの評論や書評を執筆してまいりました。奈良生まれ、奈良育ちの生粋の奈良っ子。奈良といえば日本を代表する観光地の一つですが、地元民の立場からい…
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