写真:乾口 達司
地図を見る大宰府は古代の筑紫国に置かれていた行政機関。現在の九州および周辺の島国を統治の対象としており、おもに外交や防衛を任務としていましたが、朝廷の権威が衰退するにともない、12世紀には廃絶したと考えられています。しかし、それでも行政機関として数百年の歴史を有しているだけに、特に九州を舞台とした歴史上のエピソードには、その名がしばしば登場します。
たとえば、奈良時代、宮廷を震撼させた藤原広嗣の乱は、広嗣が大宰府へ左遷されたことがきっかけで起こりました。平安時代中期の起こった藤原純友の乱では、大宰府そのものが陥落。中世以降、北部九州に覇をとなえた守護大名・少弐氏などは、祖先に当たる武藤資頼が大宰府の役職名であった大宰少弐に任命されたことにちなんで、その姓をあらためたほどでした。『万葉集』に造詣の深い人であれば、大宰府の役人として都から下向し、歌を詠んだ山上憶良や大伴旅人・家持親子の名を思い出すはず。都を左遷され、当地で没した菅原道真の悲劇についてはいうまでもありません。こういった出来事や人物名だけでも、大宰府が持つ歴史の重みが理解できるでしょう。
政庁跡は「都府楼跡」と呼ばれ、現在は公園として整備されています。正殿の位置していたところには、ご覧のように、3本の石碑が建てられています。いずれも大宰府の歴史を顕彰しようとして建てられたものですが、そこからも大宰府に寄せる地元民の思いの深さがうかがえるでしょう。石碑の並ぶあたりから周囲を見渡すと、大宰府が山々にかこまれた防衛上の要衝でもあったことがうかがえます。
写真:乾口 達司
地図を見る政庁跡の地面には、写真のような丸い石造物が埋め込まれています。これはいったい何でしょうか。実はこれ、当時の建物を支えた礎石なのです。その多くは現代になってから復元されたレプリカですが、なかには、当時そのままの礎石も混じっています。復元されたものと当時のものとでは石の色がまったく異なるため、誰にでも容易に見つけることができるはず。点在する礎石群を眺めると、その上に築かれていた木造建造物の大きさに圧倒されるに違いありません。
写真:乾口 達司
地図を見る政庁跡の一角に建つのは、大宰府の歴史を学習するための施設・大宰府展示館。館内には周辺地域の発掘調査のなかで見つかった出土品が数多く展示されている上、奈良時代に築かれた排水溝の一部も保存・展示されています。政庁の復元模型や当時の役人が食べた食事内容も復元・展示されており、大宰府の歴史や魅力をより深く学ぶのに格好の施設です。入館も無料ですし、政庁跡を訪れたら、ぜひ、足を運んでください。
写真:乾口 達司
地図を見る観世音寺は政庁跡の東方に位置する寺院。白鳳時代、天智天皇が母・斉明天皇の菩提をとむらうために建立したと伝わります。すべての堂塔が完成するのは奈良時代に入ってからですが、その造営にたすざわった主体こそ、観世音寺と同時進行的に造営が進められていた大宰府でした。大宰府と深い関わりを持つ寺であったことから、「府の大寺」とも呼ばれていました。
現在、残っている建物はすべて近世に再建されたものばかり。その規模も創建当初に比べてはるかに縮小していますが、当時は長大な回廊にとりかこまれ、その内部には五重塔や金堂が建っていたことがわかっています。なかでも、注目したいのは、寺の南西部分に戒壇院が設けられていたことです。戒壇とは、僧侶に戒律をさずける場所のこと。当時の日本では、戒をさずけられてはじめて僧侶となることが正式に認められたのですが、その戒壇があったのは、奈良の東大寺、下野国の薬師寺、そして、ここ、観世音寺だけだったのです!そのことからも、観世音寺が西日本における仏教の中心地であったことがうかがえるでしょう。
写真:乾口 達司
地図を見る観世音寺の隆盛は、何も失われた寺域にだけ限りません。写真は境内の鐘楼に吊るされている国宝の梵鐘。京都の妙心寺、奈良・当麻寺の梵鐘と並んで、日本最古の梵鐘といわれています。ほかにも、収蔵庫には像高5メートルにおよぶ巨大な木造馬頭観音立像をはじめとする数々の巨大仏が展示されており、その圧倒的な規模からも観世音寺の力の大きさがうかがえます。それも観世音寺が大宰府と深い関わりを持っていたからこそであることはいうまでもありません。観世音寺の壮大なスケールを通して、大宰府の権威と権力の大きさを実感しましょう。
大宰府がいまに伝える歴史を実感できたのではないでしょうか。大宰府の周辺地域には、ほかにも、菅原道真ゆかりの太宰府天満宮や大宰府の防衛と関わりを持つ水城など、まだまだ多くの関連スポットが点在しており、見所は満載。もちろん、政庁跡に点在する礎石の上に腰を下ろし、お弁当を広げてゆっくりするのもいいでしょう。当時の都に匹敵するだけのスケールを誇った西日本随一の行政機関・大宰府。その壮大さをご自身の目で堪能してみてください。
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(2024/10/15更新)
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