これ、誰!?何!?兵庫県加古川市の石棺仏「セイメイさん」

これ、誰!?何!?兵庫県加古川市の石棺仏「セイメイさん」

更新日:2024/12/23 14:01

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
兵庫県加古川市の「セイメイさん」をご存知でしょうか?え?セイメイさん!?誰、それ?いえいえ、別にセイメイさんという実在の方を探しているわけではありません。では、セイメイさんとはいったい誰なのでしょうか?実は、セイメイさんは古墳時代の石棺に刻まれた線刻画のこと。その名は平安時代に活躍したかの有名な陰陽師・安倍晴明ともかかわりがあるとされています。今回はそんな謎の「セイメイさん」をご紹介しましょう。

加古川市国包地区の「セイメイさん」

加古川市国包地区の「セイメイさん」

写真:乾口 達司

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「セイメイさん」がいらっしゃるのは、兵庫県加古川市北部の国包地区。集落のはずれのこちらの小屋にいらっしゃいます。

加古川市国包地区の「セイメイさん」

写真:乾口 達司

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小屋を正面から見ると、ご覧のとおり。ガラス板のはめ込まれた扉は閉じられていますが、拝観は自由。扉を開けて、なかに入れていただきましょう。

内部に鎮座する「セイメイさん」

内部に鎮座する「セイメイさん」

写真:乾口 達司

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屋内はご覧のとおり。石材らしきものが床に多数置かれています。

内部に鎮座する「セイメイさん」

写真:乾口 達司

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注目していただきたいのは、左奥に立て掛けられているひときわ大きな石材。高さ149センチメートル、幅85センチメートル、厚さ40センチメートルの規模で、凝灰岩製。よく見ると、石材の表面には顔や胴体のようなものが刻まれているではありませんか。そうです、こちらが「セイメイさん」と呼ばれている線刻です。

畑偕夫編『加古川市史に読む わがふるさと国包 』(2003年刊)によると、「せいめいさんは厄神駅をつくる際、付近の深い井戸を掘っているとき、井戸のふたとして埋まっていたものだという」「重いためトロッコで近くにある小さなお堂に運び、祭った」とのこと。

「小さなお堂」というのが、現在、セイメイさんの安置されているお堂です。

内部に鎮座する「セイメイさん」

写真:乾口 達司

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写真はセイメイさんの刻まれた石材を横から撮影したもの。実はこの石材、古墳時代に石室のなかに置かれていた家形石棺の蓋石の一部なのです。セイメイさんのいらっしゃる国包地区をふくめ、播磨平野には出土した古代の石棺に仏像を刻み、おまつりした「石棺仏」が点在しており、セイメイさんもそのうちの一つとされています。

では、なぜ、その名が「セイメイさん」なのでしょうか。伝承では、平安時代の有名な陰陽師・安倍晴明の術がかかっていることから「セイメイさん」と呼ばれるようになったとのことですが、畑偕夫は「関係はなさそうだ」と主張。畑は代わりに「せいめいさんは、なんでも病気を治してくれるといい、ハメ(まむし)の神さまだという」と紹介しています。田畑にかこまれている国包地区では、マムシもたくさん出没したことでしょう。そんなマムシから身を守ってくれる有難い存在として、セイメイさんが敬われていたという話は、確かに納得がいきます。

徹底解剖!セイメイさんの細部

徹底解剖!セイメイさんの細部

写真:乾口 達司

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では、セイメイさんをよくご覧いただきましょう。

写真はセイメイさんの上半身を撮影したものですが、体部とのバランスを欠いた大きな頭部が印象的です。唇の部分にはかすかに朱のようなものが残されているため、かつては彩色がほどこされていたと考えられます。

手には、錫杖のようなものが描かれています。頭部の背後にも放射状に墨書の線描が見られますが、こちらは光背を示しているのではないでしょうか。

徹底解剖!セイメイさんの細部

写真:乾口 達司

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体部から脚部にかけては、摩滅もあって、見づらくなっています。着衣の様子はうかがえるものの、腕部の様子ははっきりしません。ただ、最下部に蓮の葉のようなものが複数描かれていることから、セイメイさんは蓮の台座の上にすわっていることがわかります。

畑はセイメイさんのいらっしゃるお堂が「青面堂」と呼ばれていたことを指摘しています。その指摘からは、「青面堂」に敬称がついた「青面さん」が訛って「セイメイさん」と呼ばれることになったことが推察できますが、仏教の世界で「青面」といえば、青面金剛を思い浮かべます。セイメイさんは青面金剛を造形化したものなのでしょうか。それとも、坊主頭、錫杖、光背などのデザインからいって、地蔵菩薩をかたどったものなのでしょうか。後の研究を待ちたいところです。

いずれにしても、素人が見よう見まねで彫ったような稚拙な造型は独特。制作年代も不明ですが、ぜひ、細部までご覧ください。

その他の石造物

その他の石造物

写真:乾口 達司

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セイメイさんの向かって右隣りにも、五輪塔の残欠など、たくさんの石造物が置かれています。

その他の石造物

写真:乾口 達司

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奥に立て掛けられている2枚の平たい石材も、やはりセイメイさんと同じ組合式石棺の残欠。表面には仏像が刻まれていたと考えられていますが、視認はできません。

その他の石造物

写真:乾口 達司

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セイメイさんに対する崇敬の篤さを示すかのように、小さな民衆仏も安置されています。セイメイさんと同じく稚拙な造型であり、素人が自分で彫って奉納したようなものですが、それだけに民間信仰としてのセイメイさんのありようを思い知らされます。

石棺仏のセイメイさんがどのようなお方か、おわかりいただけたでしょうか。石棺仏という形態も珍しい上、その稚拙でありながら、独特の造型が見るものに強烈なインパクトを与えるため、ぜひ、現地を訪れ、セイメイさんにお参りしてください。

セイメイさんの基本情報

住所:兵庫県加古川市上荘町517-2
アクセス:JR厄神駅より徒歩約10分

2024年12月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2024/05/03 訪問

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