この村の「温泉」としての歴史は古い。聖武天皇の御代(724〜748年)に、この地を訪れた僧「行基」が発見した、との伝承もあるほど。「湯山村」としての名前が鎌倉時代中期の古地図に残され、江戸時代初期にはすでに湯治場として栄えたという。
温泉街の中心にあり、外湯のシンボルともなっているのが「大湯」だ。湯屋建築と呼ばれる木造の構えは、1994年にリニューアルされているが、湯気を抜くために設けられている高楼もどっしりと江戸情緒を残している。
男女別々の入口を入る。入口の戸を開けると、目隠しはあるが、いきなり浴場、その奥に浴槽が見える。壁に靴置きと脱いだ衣類を置く棚がしつらえられていて、浴場の手前の細いスペースが脱衣場、というレイアウト。町の公衆浴場のイメージで、入口から靴脱ぎ、番台があって脱衣室という観念で入ると、ちょっとビックリする。
浴槽は「あつい湯」と「ぬるい湯」の2槽に分かれている。それぞれ2m四方にたりない小ぢんまりした湯船。掛け湯をして、熱いのにまたビックリ。「ぬるい」の湯で十二分に熱い。源泉は大湯で、泉温は66度余り。源泉掛け流しで、壁には湯もみ板、湯船には水道がある。うめて入っても我慢比べになる。単純硫黄泉で、特に色はない。湯船に身を沈めると、湯気が背の高い天井へゆらゆらと昇っていく。そのさまを見るのも楽しい。一番の人気のある湯だけに、人の出入りが多い。
火照った体で外へ出て、次の湯をめざす。山手へ向かうと湯沢神社にぶつかる。
左手に道をたどると、薬師堂と源泉「麻釜(おがま)」がある。100度近い熱湯がこんこんと湧き出る麻釜は、かつては刈り取った麻を、ここの湯だまりにひたし、後で皮をむいたことから、その名がついたといい、大釜、丸釜、ゆで釜などの湯だまりが集まって、いまでも地元の人たちが山菜や温泉卵、さらに特産のあけびづるを釜にひたす姿が見られる。熱湯なので、一般の人は立ち入り禁止になっているが、野沢温泉の奇勝の一つ。足湯もある。
ここから坂を下がると、村が最近つくった「ふるさとの湯」という日帰り入浴施設もある。ここは有料で大人500円。
さらに行ったところに外湯の「麻釜(あさがま)の湯」がある。ここの湯温も熱い。ほかに入っている人がいないときには、脱衣の前に湯温を確かめたほうがよい。男湯の仕切り戸の上には季節があえばツバメが巣の子に餌を運ぶ姿も見られる。
少しぬるめの湯に入りたければ、「熊の手洗湯」がおすすめ。ここは湯温が40度余り。のびのびと手足が伸ばせる。この地の温泉起源の説の一つとして、撃った熊の後をつけた猟師が、傷を温泉につけている姿を見つけた、という伝説に因んだ古い湯で、地元でも愛好者が多いようだ。
さらに、町のあちこちに2階建てコンクリートで建てられた湯もある。「十王堂の湯」も、その一つ。女湯が1階に、男湯は2階だ。湯のすぐ向かいには、湯の名前の由来となった「十王堂」がある。閻魔様と10人の裁判官が、サンズの川原で衣服を剥がされた死人の生前の罪業を秤にかけて天国行きか、地獄へ落とすかを裁く。そんな像が納められている。この地の人々の信仰の歴史が伺えるお堂だ。
野沢温泉村の13の外湯
大湯(おおゆ)▽河原湯(かわはらゆ)▽秋葉の湯(あきはのゆ)▽麻釜の湯(あさがまのゆ)▽上寺湯(かみてらゆ)▽熊の手洗湯(くまのてあらゆ)▽松葉の湯(まつばのゆ)▽中尾の湯(なかおのゆ)▽新田の湯(しんでんのゆ)▽真湯(しんゆ)▽滝の湯(たきのゆ)▽横落の湯(よこちのゆ)▽十王堂の湯(じゅうおうどうのゆ)
野沢温泉村は「道祖神」のふる里でもある。「道祖神」にも、いろいろなパターンの信仰があるようだが、ここの「道祖神」は「めおと」が基本。男神は「八衢比古神(やちまたひこのかみ)」、女神は「八衢比賣神(やちまたひめのかみ)」なのだそうだ。イケメンでない男神とブスだった二神が結ばれたところ、めでたく男子が出生した、という縁結びと子宝の神、という。
男女一対の神様は、それぞれ素朴な味わいのある手作りで、村の各家庭に祀られ、JRの駅のホームから温泉街の土産物屋のショーウインドウーにまで、飾られている。
毎年1月14、15日に行われる道祖神祭は勇壮で、国指定の無形文化財の火祭りだが、この日、会場に置かれた大きなたらいに、自分の家の神様を収め、替りに他家が祀って、たらいに入れた神様を持ち帰る習わしだというのも面白い。
野沢温泉村は上信越道「豊田飯山」インターチェンジで降りて、国道117号で25分ほど。新潟との県境の村だ。長野冬季オリンピックのスキー会場ともなり、スキー場としても世界に名が売れた。野沢菜の里でもある。
外湯はかつて、温泉街の宿泊客に限って開放していたことがある。現在では、その制限をはずしているが、外湯が地元の共同浴場で、地元の人々(湯仲間)によって日々、清潔に維持されている生活の場であることを忘れてはいけない。大湯に薬師如来が、その他の湯に十二神将を祀っていることも、湯まもり仏としてのこと。湯の入口に置かれた賽銭箱に「ちょっぴり」でもお気持ちを。
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