富岩運河は富山駅北から富山港までを結ぶ、全長およそ5キロの運河です。
昔は富山市内で大きく蛇行していた神通川はたびたび氾濫し、毎年のように市民に大きな被害を与えていたといいます。
そのため神通川の直線化工事が進められ、現在のような流域となります。
けれども市街地には神通川の廃川地が広く残されてしまいました。
そこで富山駅の北側から東岩瀬港(現在の富山港)の間に新しく運河を開削し、掘った土砂で廃川地を埋め立てることとなりました。
富岩運河は1930(昭和5)年に建設が始まり、1935(昭和10)年に完成しました。
戦後に自動車が移動交通の中心となり、運河を利用した水運はすたれてしまいます。
かつては水運で栄えた富岩運河もいつしか市民から忘れられた存在となってしまいます。
しかし、1988(昭和63)年に富岩運河の舟だまりを利用した環水公園の再開発が始まると、この運河は再び脚光を浴びることとなります。
環水公園は2011(平成23)年に完成しました。
野外劇場や運河の両岸を結ぶ天門橋など美しい景観もさることながら、園内には、全世界のスターバックス店舗の中からすぐれたデザインの店舗に贈られる最優秀賞を受賞した「スターバックスコーヒー環水公園店」、そしてフレンチの鉄人坂井宏行シェフの監修によるフレンチレストラン「ラ・シャンス」があり、いまや富山の新しい観光スポットとなりました。
この環水公園を発着点としているのが、富山県と富山市が運航している富岩運河クルーズ「富岩水上ライン」です。
就航しているのは県の旅客船「sora」(定員55名)と市の電気ボート「もみじ」(定員11名)の2隻。
毎年4〜11月の土・日・祝日に中島便(環水公園〜中島閘門)と岩瀬便(環水公園〜岩瀬)の定期運航を行っています。
それとは別に春になれば「お花見運航」、夏の「夏まつり・花火運航」、秋の「おわら運航」など季節やイベントに合わせた特別運航も行われています。
お花見運航(4月)では、「富山さくらの名所70選」に選定された桜並木が富岩運河沿いで楽しめます。
おわら風の盆に合わせて行うおわら運航(8月末〜9月初め)では、船上で胡弓の生演奏と優雅な踊りを堪能できます。
さて、今回紹介するのは環水公園と富山港・岩瀬カナル会館を結ぶ「岩瀬便」。
いわゆる富岩運河フルクルーズです。
環水公園発、岩瀬カナル会館発ともに1日2便のみの運航となります。
チケットは片道1500円。
人気が高いコースなので、富岩水上ラインのホームページからの予約がベター。
空席があれば環水公園か岩瀬カナル会館にある富岩水上ラインの切符売り場でも購入できます。
それでは岩瀬便に就航しているソーラー船「sora」に乗り込んで、60分間のクルーズに出発です!
環水公園を出発した「sora」はゆっくりと運河を北上します。
どれくらいゆっくりというと、運河沿いの遊歩道をジョギングしている人にあっさりと追い越されるくらいのスピードです。
船に乗り込んだガイドさんの説明に耳を傾けながら、運河に架かる橋や沿岸にある街並みを眺めているうちに、船はさらに減速します。
さっそくクルーズのハイライトがやってきました。
ここは「中島閘門」。
中島閘門は、富岩運河の建設にあわせて1934(昭和9)年に造られました。
富山港側と環水公園側の水位差を二対の扉で調節するパナマ運河方式(前後のゲートを交互に開閉することで水位の異なる水面を調整)の閘門です。
そのため「富山のパナマ運河」の異名も持っています。
1998(平成10)年には「昭和初期の土木技術の完成度の高さを示すもの」として高く評価され、昭和の土木構造物として全国で初めて、国指定重要文化財に指定されました。
船はゆっくりと閘門のゲートに向かって進んでいきます。
すると、後方のゲートが閉じられ、すっかり閘門内におさまってしまいました。
ここから岩瀬便名物の「水のエレベーター」体験が始まります。
中島閘門での水位調整は高低差2.5メートル。
みるみるうちに閘門内の水が減っていきます。
画像では両側の壁と前方の鉄のとびらに、水面から少し黒くなった部分がありますが、これが水位調整で下がった水位をあらわしています。
わずか数分で船の位置はここまで低くなったんですね。
水位調整が終わると前方の門が開き、中島橋という古い橋をくぐって「sora」は北上を続けます。
本場のパナマ運河のようなスケールの大きさこそありませんが、この何とも不思議な「水のエレベーター」を体験できるのは日本では中島閘門だけ。
2014年にパナマ運河は開通100周年を迎えましたが、中島閘門も80周年でした。
歴史の古さならほとんど引けをとりません。
なお、この「水のエレベーター」体験ができるのは「sora」を利用した環水公園〜岩瀬便のフルクルーズだけです。
中島閘門を抜けると、船の両岸にはこれまでとかなり異なった世界が広がります。
それまでは遊歩道が整備され、人家も間近に見えたのですが、しばらくは遊歩道も民家もない、なんだか野趣あふれる光景が続きます。
パナマ運河では熱帯雨林のジャングルが両岸に広がりますが、富岩運河もこのエリアはまるでパナマやアマゾンのジャングル地帯に迷い込んでしまったような錯覚に陥ります。
そして野鳥の姿も、これまで以上に多く見られるようになります。
バードウオッチングが好きな方は、ぜひ双眼鏡をお持ちください。
野鳥の楽園を過ぎると、運河の光景はまたまた一変します!
運河に2本の柱がたっており、そこには「これより国際貿易港 富山港です」の文字が見えます。
この2本の柱の間を抜けると、ここからは富山港。
岸壁にはナンバープレートがはずされた中古車がズラリと並び、また、スクラップの山が小さいながらも立山連峰に負けじとちょっとした山脈を作っています。
そう、国際貿易港・富山港の輸出品は中古車とスクラップ。
ロシアからやってきた貨物船が、大量の中古車を運び込んでいる光景は、日常なかなかお目にかかれません。
そして船のそばには自転車に乗っているロシア人船員たちの姿も見えて、さっきまでパナマかブラジルの熱帯雨林にいると思ったのに、10分ほどで全く別の国にやってきたような気分になります。
右手に富山港展望台の建物が見えてくると、港町・岩瀬の近くです。
そして前方にはこれまでの運河とは比べものにならない広さの富山湾が・・・。
こんな小さな船で、海を渡れるのか!
そんな心配は無用です。
「sora」は湾に入る手前で右折。
岩瀬の街並みを両岸に眺めつつ、そのままゴール地点の「岩瀬カナル会館」へと向かいます。
環水公園を出発してから1時間、「sora」は岩瀬カナル会館の船着き場に到着します。
クルーズは下船で終了。
ですが、このクルーズは船を下りてからもいろいろ楽しめるんです。
まず乗船チケットの半券は絶対に捨てないように!
富山市内の指定施設で割引やドリンク一杯などのサービスが受けられるんです。
たとえば岩瀬カナル会館の物産館で1000円以上の買い物をした場合、また館内の「レストランサンタフェ」で飲食をした場合、乗船チケット半券を提示すれば、それぞれ5%割引が受けられます。
富山の名品はいろいろありますが、なかでも絶品なのが白えび。
カナル会館ではせんべいなど白えびを使った商品がいっぱい売られているので、お土産にも最適です。
それから、港町・岩瀬の散策もお忘れなく。
江戸から明治にかけて北前船交易により港町として栄えた岩瀬には、現在も当時の面影をたっぷり残す家屋が連なっています。
なかでも見学しておきたいのがかつての廻船問屋で国指定重要文化財「森家」です。
北前船交易の栄華のあとをしのぶことができるでしょう。
岩瀬散策を終えて富山駅に戻るときも、クルーズ乗船チケットの半券が効果を発揮します。
岩瀬カナル会館の最寄り駅は富山ライトレール「ポートラム」の岩瀬浜駅。
実は乗船チケット1500円には、岩瀬浜駅からポートラム(画像に写っている路面電車)の終点・富山駅北駅までの片道乗車券も含まれているんです!
富山ライトレールといえば日本初の本格的LRT(次世代型路面電車)。
いまや日本全国の鉄道ファンも乗車のために富山に駆けつけるほどの人気電車です。
岩瀬浜から富山駅北までおよそ25分。
行きはソーラー船、帰りは人気路面電車で富山駅と岩瀬浜の往復の旅は数倍楽しくなりますよ。
富山は北陸新幹線の開通に沸いています。
同時に、首都圏などにも「富山って行ったことがないけど、どんなところだろう?そして、なにがあるのかな??」と思っている人もたくさんいることでしょう。
新幹線が停車する富山駅の北口から歩いて10分ほどという絶好のロケーションに出発地点がある富岩水上ライン。
その途中には日本でここだけしか体験できない「水のエレベーター」があり、野鳥の楽園があり、世界の物流の現場である国際貿易港の姿も見ることができます。
そして北前船交易で栄えた時代にタイムスリップし、富山の名産をお土産に買ってから、人気の最先端ライトレールに乗車。
これでたったの1500円!
コストパフォーマンス的にも、非常にお得な富山体験になること間違いなしです。
そして春夏秋どのシーズンに乗船しても、それぞれの季節の良さが味わえます。
富山には何度も行ったことがあるという人、そして新幹線ができたから富山に行ってみようという人、さらには富山で生まれ育ったけれども、故郷の知らなかった表情を見たいという人。
そんなすべての人たちにオススメの船旅、それが富岩水上ラインの岩瀬便なのです。
この記事の関連MEMO
- PR -
このスポットに行きたい!と思ったらトラベルjpでまとめて検索!
条件を指定して検索
(2024/10/16更新)
- 広告 -