金沢市の文化施設共通観覧券(1DAY、3日間、1年間)が利用できる施設は全部で16。
人気の「金沢21世紀美術館」は含まれませんが、この16の中にも興味深い施設がたくさんあります。どの施設が対象なのかは、MEMOにある金沢文化振興財団のHPでチェックできます。
1DAYパスポートは510円で、当日のみ有効です。3日間パスポート(820円)もあるので、滞在日程と相談の上、購入してください。もちろん年間何度も金沢に訪れる予定のある方は、1年間パスポート(2050円)もお得ですね。
どの施設も観覧料は100円〜300円ほどの設定で、300円の施設がメインですので、1DAYパスポートなら、2つ以上回れば、元が取れることが多いです。
これらの共通観覧券は、入場することができる16の施設全てで購入可能なので、各施設の受付窓口でお求めください。
今回は、観光客が1DAYパスポートを買ったとして、半日から1日のスケジュールで回るのに便利なモデルコースをご紹介します。
近江町市場からひがし茶屋街へと繋がる尾張町のメインストリートを進み、やがて橋場町交差点にさしかかるあたりに、このパスポートで入場できる施設が数多く集中しています。今回は、かつて金沢の政治経済の中心地でもあったその地に集まる、4つの興味深い文化施設をご紹介しましょう。
まずは金沢蓄音器館をご紹介します。
「メリーさんが子羊を飼っていた」
1877年、トーマス・エジソンの歴史的発明はこのセリフとともに生まれました。それから100年以上の時を経て、2001年に金沢蓄音器館が開館しました。蓄音器600台、SPレコード約3万枚を所蔵しています。
今は、デジタルデータとして保存した音楽を聴くのが当たり前の時代です。しかし、かつて、エジソンが初めて音を録音することに成功したのが、音楽を生の演奏会だけでなく、音を保存して繰り返して自宅でも聴いて楽しめるようになったことの幕開けになります。
この蓄音器館では、蓄音器の黎明期からの歴史、また録音や再生のメカニズムを、展示を通して楽しく知ることができます。
レトロな雰囲気の館内に、年代物の本物の蓄音器がずらっと並んだ様は圧巻で、とても懐かしい気分を味わうことができます。
この蓄音器館の目玉はなんといっても蓄音器の聴き比べの時間です。1日3回(11時、14時、16時)催されていて、一回30分ほどです。エジソンの蓄音器、家が一軒買える当時の最高級品の蓄音器などに、実際に古いレコードをかけて、その音色を聴き比べることができます。
とても充実した内容の濃いプログラムになっていますので、ぜひこの開催時刻に時間を合わせて蓄音器館に行かれることをお勧めします。
金沢の三文豪の一人・泉鏡花の生家がこの界隈にあり、生家は現存しないものの、その場所に建っていた古民家が利用されて、「泉鏡花記念館」としてオープン。熱心な鏡花ファンからはもちろんのこと、全国からの観光客にも人気を博しています。
非常に幻想的で、発表当時は観念的すぎるという批評もあったそうですが、文学史上類稀なる美しさが現代でもなお人々の心をつかんで離さない泉鏡花の作品。
若いクリエーターが鏡花の世界をイラストや漫画、アニメで表現することで新たなファンを取り込むなど、ますます評価は高まっています。
小説を出版する際、鏡花は装丁にこだわりを持ち、当時から売れっ子の絵師が口絵を書いてそれが併せて話題になるなど、文章とビジュアルの融合を日本でもっとも早く取り入れた作家の1人だったと言えそうです。
それゆえ泉鏡花記念館ではビジュアルでも楽しめる展示が多く、文章が難解だと抵抗感がある人でも、すっとその幻想世界に入っていくことができます。
館内には貴重な初版本など、見た目にも美しい本が堪能でき、また鏡花の愛用品などゆかりの品々も展示してあります。鏡花の美意識に基づいたこだわりの逸品が実際に眺められます。
年に3度の企画展では、気鋭のクリエーターが鏡花の作品世界を表現した作品の展示が毎年催され、非常に人気です(企画展の内容・日程などはMEMOにある泉鏡花記念館公式サイトで確認できます)。
また鏡花の生家のあった界隈は、小説にもよく登場します。小説に描かれた舞台に実際に足を運ぶのもファンの楽しみですよね。付近には古い建物が数多く残っており、小説が書かれた時代にタイムスリップしたような気分での散策も味わい深そうです。
泉鏡花記念館は2014年12月から改修工事に入り閉館します。2015年3月にはリニューアルオープンし、以前とは展示内容に変更もあるそう。一度訪れた方も、改修後にまた訪ねてみてくださいね(閉館の詳しい日程などはMEMOにある泉鏡花記念館公式サイトで確認してください)。
続いてご紹介するのが、武家屋敷「寺島蔵人(くらんど)邸」です。
武家は代々続いている場合が多く、武家屋敷は名字だけで「○○邸」と呼ばれることがほとんどです。しかし、この武家屋敷は寺島蔵人、個人のフルネームが冠されている、大変珍しいケースです。
もちろん寺島家も代々続く家系ですが、寺島蔵人は加賀藩に仕える役人として、実に3度の免職、最後は島流しにあうという波乱万丈な人生を送りました。
とはいえ、蔵人が悪人であったということではありません。むしろ藩の将来を思えばこそ、上に従うのが絶対であった封建時代において、お咎めも覚悟で藩政に辛辣な意見を申し立ててきた、正義感と気骨にあふれた人であったのです。
藩の方針が変わるたびに、才能を買われて重用されたり、煙たがられて罷免されたり、藩の情勢に翻弄された人生とも言えますが、蔵人本人はぶれることなく、一貫して自分の正義を貫きました。
そんな蔵人の精神を、金沢に受け継ぎ、残していくべきだという思いが、この屋敷に蔵人のフルネームを冠させることになったのではないでしょうか。
蔵人は、若い頃から抜きん出て学問に優れていました。同時に、画家としても、数々の秀作を残しました。寺島蔵人邸では蔵人の絵画、愛用していた画材なども展示してあります。
また、能登島への流刑が決まった時、寺島家を継ぐ養子の主馬(しゅめ)に宛てた手紙が展示されています。「家族を大切に、家臣には優しくするように。お前ともっと話がしたかったのにとても残念だ」というような内容がしたためられており、思いやりに満ちた優しい心の持ち主だったことも偲ばれます。
さて、庭園の中には、樹齢約300年のドウダンツツジの樹木が植えられています。春には可憐な白い花を咲かせ、秋には鮮やかに紅葉し、訪れる人々の目を楽しませてくれます。
住居全体に、凛とした雰囲気があり、庭にも清冽さを感じます。そこにドウダンツツジがやさしい表情を添えており、蔵人もまた、自分を貫く潔さの中にもあたたかさを兼ね備えていた人柄であったのをうつしとったかのようです。
写真の15畳ある座敷の隣にある茶室では抹茶を頂くこともできます(300円別途必要)。
蔵人の危険をかえりみず正しいことを発言する勇気は、今、現代を生きるわたしたちにもまた強く訴えてくるようでもあります。ぜひ寺島蔵人邸を訪ねて、その人生に触れてみてください。
最後にご紹介するのが、「金沢文芸館」です。この文芸館の建物の写真は1枚目に使っているのですが、昭和4年建築の銀行に使われていたレトロな建物で、金沢のランドマークとして長く市民に親しまれてきました。
5枚目の写真は、この文芸館のすぐ脇を流れる惣構堀(そうがまえぼり)です。左手に見えるのがレトロな文芸館の建物の壁面で、建物自体も味わいがありますが、この惣構堀との組み合わせはなんとも文学的で、訪れる人々に評判となっています。
惣構堀とは、かつて金沢城を守るために掘られた外堀のひとつで、現在では大半が失われていますが、この文芸館横には、ひっそりとまだ水脈が生きています。
金沢市は泉鏡花、徳田秋聲、室生犀星といった文豪を生み、また多くの作家が金沢に魅せられて、金沢を舞台とした作品を書いてきました。そんな文学の街の拠点としてオープンしたのがこの「金沢文芸館」です。
この金沢文芸館の2階には、金沢に非常にゆかりのある作家、五木寛之氏の作品などをコレクションした「五木寛之文庫」があります。日本文壇の第一人者、五木氏は、30代の一時期、金沢市に暮らしました。ここでは五木氏の全著作が揃っているほか、愛用品や記念品などが展示してあり、存分に氏の魅力を味わうことができます。
3階は金沢市が主催している泉鏡花文学賞の受賞作品などが揃っています。また、小説や詩の創作の講座が開催されるスペースとしても使われます。市民によって、今を切り開く文学がまさに生み出されている場所となっています。
蔵書は貸出はしていませんが、館内の椅子やテーブルを利用して寛いで読書を楽しむことができます。本を読むためだけに通っている市民の方も多いのだとか。
旅情はときに人を作家にします。金沢で印象に残ったことを旅行記にしたためる…、そんな作業もここでならはかどるかもしれませんね。
いかがでしたか?
ここでご紹介した施設はいずれも、橋場町交差点から歩いてすぐの場所にあります。
鑑賞の仕方にもよるとは思いますが、この4つの施設はどれもこぢんまりとした規模なので、1DAYパスポートを使って、半日から1日ですべて見てまわることが可能です。もちろん気に入った施設があれば、もう一度戻ってじっくり鑑賞することも可能です。
16の施設には、2011年にできたばかりの鈴木大拙館なども含まれているので、バスやタクシーを利用して足を伸ばし、さらに1日で様々な施設を見ることも可能です。3日間パスポートもあるので、スケジュールと相談の上、パスポートを上手に利用して楽しんでくださいね。
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(2024/12/12更新)
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