写真:橘 凛
地図を見る現代では、ロマンティック街道は、旅情あふれるロマンティックな古都街道というイメージがありますが、そもそもは、「ローマへの巡礼の道」という意味合いを持っていました。アルプスを越えたはるか遠いローマに巡礼するために、ローマ・カトリック教徒達が多くの年月をかけて整備した道だったのです。そのため、ロマンティック街道上には数々の教会があります。ヴィースの巡礼教会もそのひとつです。
ヴィースの巡礼教会のドイツ名は"Wieskirche"であり、Wies(ヴィース)とはドイツ語で「草原、牧場」などを意味し、kirche(キルヒェ)とは「教会」のことです。その名の通り、ここは昔から広々とした草原であり、農村地でした。暖かい季節であれば青々とした草原のなか、冬であれば雪景色のなか、淡いパステルカラーの建物がぽつんと現れます。それがヴィースの巡礼教会です。外観は比較的シンプル。外から見る限りでは、ここが重要なスポットであることがにわかに信じられないかも知れません。
しかし、一歩その中に足を踏み入れると、その圧倒的な荘厳さと美しさに呆然と佇むことになるでしょう。1983年、ヴィースの巡礼教会は、人類の創造性を結集した傑作としてその文化的価値の高さを認められ、ユネスコにより世界文化遺産として登録されました。
ヴィース巡礼教会は、ドイツ・ロココの最も美しい建築物のひとつとしてその名を馳せていますが、ロココとはもともとはフランスで生まれた瀟洒な建築様式です。その後ドイツにも広まり、それ以前からのドイツ・バロック様式と組み合わされ、独自の芸術文化がこの地に花開きました。当時のドイツは小さな国々に分かれており、それぞれの領主はその資金力をもって、多くのドイツ・ロココ様式の宮殿や教会を建造しました。
大草原の小さな教会として始まったヴィース巡礼教会は、地元の農婦が修道院の屋根裏に放置されていたキリストの像に祈りを捧げ続けたところ、その像の目から涙が流れたという神秘的な伝説が広まり、巡礼者を次々と増やしていました。その後、修道院主導で寄付金を募り、ドイツ宗教建築家を代表するドミニクス・ツィンマーマンによって1764年から建築が開始され、現在の姿となりました。
ツィンマーマンの兄が担当した天井画は「天から降ってきた宝石」とも表現され、パイプオルガンも教会の建築様式に合わせたデコラティブな芸術作品として必見です。ツィンマーマンは建築後もこの教会のそばで生活を続け、教会を終生見守り、その生涯を終えました。その壮麗さのみならず、建築に関わった人々の深い愛を感じられる教会と言えるでしょう。
ヴィース巡礼教会は、決してアクセスの良い場所にあるとは言えません。しかしながら、一度この目で見たいと多くの観光客や巡礼者が訪れ、その数は年間100万人を超えています。
ロマンティック街道をめぐるツアーに参加するのが最も効率的な方法ですが、あまりの美しさにゆっくり時間をかけて鑑賞したいと感じられるかも知れません。
個人で行く場合に利用したいのが、約20キロ離れたロマンティック街道の終着地であり、かの有名なノイシュヴァンシュタイン城のあるフュッセンからのバス(約40分)です。本数は少なく、また時刻表も変更があるので不便ではありますが、巡礼者たちが幾度となく通い合った街道の雰囲気を味わうことができます。
教会までの道は少し上り坂になっているので、歩きやすい靴で訪れることをおすすめします。周辺は牧草地帯ではありますが、小さな売店やトイレ(有料)もあり、休憩することができます。近くのレストランの揚げパンも美味しいと人気です。
教会は年間通して朝8時から夕方まで開いていますが、ミサの時間中は教会内部を見学することができないため、その都度、ホームページで確かめられることをおすすめします。また、教会周辺は非常に静かに保ってあります。あまり露出の激しい服装での訪問はお避けください。
ロマン溢れるヴィース巡礼教会、いかがでしたでしょうか?
ロマンティック街道は、他に類を見ない美しい歴史的建造物の宝庫です。この道の上には、ときの統治者や建築家、巡礼者たちの夢や情熱が詰まっています。
今もその鼓動が感じられるいにしえの街道、ぜひとも足跡を辿ってみてください。
この記事を書いたナビゲーター
橘 凛
イタリア在住ライターの橘 凛(たちばな りん)です。南欧をメインに、ヨーロッパ最新情報を現地の声たっぷりにお届けします。いつもよりちょっと贅沢したいセレブな旅、短時間でもフットワーク軽く効率的に楽しむ…
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