写真:Hiroko M
地図を見るロンドン中心部から地下鉄で北東に約20分、落ち着いた雰囲気の街、ウォルサムストウ(Walthamstow)にウィリアム・モリス・ギャラリー(William Morris Gallery)はあります。「モダンデザインの父」と称されるモリスが、1848年から1856年までの多感な青年時代を過ごした家で、1950年に美術館としてオープン。2013年にはイギリスの「ミュージアム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたこのギャラリーは、なんと入場無料!モリスをよく知らない人にも分かりやすいディスプレイや、息抜きできるカフェも併設された、とても充実した美術館です。
写真:Hiroko M
地図を見る館内には、モリスの人物紹介コーナーの他、自身がデザインした壁紙、生地、タペストリー、家具の実物が200点以上もディスプレイされており、超間近で素晴らしい作品を見ることが出来ます。そして、普通の美術館と違う点は、写真のような分かり易い展示。左側は、モリスが生きたヴィクトリア朝時代の典型的な大量生産型のインテリアで、一見高価に見えますが、よく見ると質が粗悪。一方、右はモリスが提案したデザイン。一見素朴ですが、実はとても手が込んでいるのです。隣り合わせて比較すると、モリスのデザインの特徴が一目瞭然。他にも、タッチパネルを使ってモリスが人気デザイナーに上り詰めるまでの軌跡を辿ることも出来ます。
ここでモリスの思想を少しおさらい。モリスは、19世紀中頃当時、産業革命がもたらしていた「機械生産」が生み出す日用品の醜悪さや質の悪さに嘆き、中世ヨーロッパの頃のように、「職人」が労働の喜びを噛み締めながら美しいモノづくりが出来る環境を復活させたいと考えました。そして同じ思想を持つ仲間と共に、日用品をアート化する「アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts and Crafts Movement)」や商会(後のモリス商会)を起こし、手作りの壁紙や家具等のインテリア用品をデザイン、販売。限られた裕福な人間だけではなく、なるべく多くの人に手が届く「美」を追求し続け、ビジネスマンとしても成功を収めました。なんとモリス商会は今日も健在。ロンドン市内の大手デパートで、現在も壁紙やカーテンを購入することが出来るのです。
写真:Hiroko M
地図を見るモリスの時代は、化学染料を使った派手な色合いの布で溢れていました。しかし、それは味気なく、すぐ飽きてしまうようなものばかり。モリスは植物由来の天然染料が作り出す、自然の美しさに魅せられ、10年もの歳月をかけて高品質な染布技術を獲得。美術館内のワークショップでは、モリスが用いた染料についての説明がある他、生地の一枚一枚に模様を印刷する為に使った木版の実物にも触ることが出来ます。
写真:Hiroko M
地図を見る晩年のモリスは、インテリア用品の他に、本のデザインも手掛けました。自らも小説を執筆し、現代のファンタジー文学の先駆けとも言われています。また、ケルムスコット・プレスという出版社を作り、高品質な紙に繊細な装飾を印刷した本を作り上げました。中には、完成に4年の歳月を要したものもあり、モリスが「最高に美しい本」の為に燃やした執念は圧巻。ギャラリーに展示してある実物の本は、一点一点が正に芸術です。
写真:Hiroko M
地図を見るウィリアム・モリスのデザインはどれも職人の技術と情熱が感じられる、味わい深いものばかり。どことなく、わびさびも感じられ、日本人にはとても馴染み易いのです。美術館のギフトショップには、そんな素敵なデザインのグッズがたくさん。大人テイストのお土産としても素敵ですし、自分用にも色々買いたくなると思います。どれも、きっと使えば使う程、愛着が湧いてくることでしょう。
今から150年も前に、大量生産・大量消費社会に警鐘を鳴らし、モノづくりの原点を教えてくれたウィリアム・モリス。その思想やデザインは、現代のモダン・デザインや、20世紀日本の「民芸運動」の重要なルーツとも言われています。近年、日本の全国各地でもウィリアム・モリス展が開催され、モリスのタイムレスな魅力を物語っています。ロンドンに来られた際は、是非、ウィリアム・モリス・ギャラリーで、モリスの世界に浸ってみて下さい。
この記事を書いたナビゲーター
Hiroko M
2011年から5年間滞在していたヨーロッパの記事を中心に、大好きなハワイなどについても執筆しています。出産してから旅行をする機会はグッと減ってしまいましたが、だからこそ旅行する時は思いっきりエンジョイ…
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