写真:乾口 達司
地図を見る帯解散策の基点となるのは、JR桜井線(万葉まほろば線)の「帯解駅」。帯解駅は、1898年(明治31)、当時の奈良鉄道が桜井駅と京終駅とのあいだで敷設された折に設置されました。
駅舎は木造平屋建ての瓦葺き。1898年に設置された当時の形を残していることもあり、2022年(令和4)、国の登録有形文化財に答申されました。
写真:乾口 達司
地図を見る駅の周辺には、ご覧のような標識が見られます。文字通り「帯解」だらけです。
<JR帯解駅の基本情報>
住所:奈良県奈良市今市町
アクセス:JR奈良駅より電車で約6分
写真:乾口 達司
地図を見るそもそも、この地域がなぜ「帯解」と呼ばれることになったのでしょうか。その由来には諸説がありますが、なかでよく知られているのが「帯解寺(おびとけでら)」の創建とかかわるものです。
帯解寺は空海の師・勤操によって開かれた堂宇の一つ。平安時代、当寺で祈願した文徳天皇の女御・染殿后(藤原明子)が後に惟仁親王(後の清和天皇)を懐妊・出産したことから皇室の尊崇を受けました。その際、無事に帯が解けた(安産が叶った)という意味で、勅命により「帯解寺」と名乗るようになったといわれています。
その後は子授け・安産の寺として広く信仰を集めることとなり、当寺で祈願をおこなった歴史上の人物としては、江戸幕府第2代将軍・徳川秀忠の正室・崇源院や3代将軍・徳川家光の側室・御楽の方などを挙げることができます。「帯解」の名が安産祈願に由来しているとは、意外や意外ですね。
写真:乾口 達司
地図を見る写真は帯解寺で販売されている腹帯の見本。「さらしタイプ」「コルセットタイプ」「ガードルタイプ」などオリジナルの腹帯も販売されており、安産祈願を受けられた方の腹帯には、御朱印までつけていただけるようになっています。
腹帯を巻きはじめるのは、懐妊5ヶ月目の「戌の日」からであるとされます。したがって、戌の日は多くの参拝者が集まりますが、安産祈願が受けられるのは戌の日に限られているわけではないため、懐妊中の方はご自身の都合に合わせて参拝しましょう。
<帯解寺の基本情報>
住所:奈良県奈良市今市町734
電話番号:0742-61-3861
アクセス:JR帯解駅より徒歩約3分
写真:乾口 達司
地図を見る帯解寺の南方に位置する龍象寺も帯解子安地蔵尊を本尊とした安産祈願所。
寺伝によると、730年(天平2)、光明皇后の懐妊にともない、聖武天皇は行基菩薩に皇后の安産祈願を命じます。天皇の命を受けた行基は広大寺の奥之院として当寺を創建。皇后は後に無事出産されたといいます。
以来、帯解寺と同様、龍象寺も安産祈願所として多くの人の尊崇を集めることとなりますが、一つの地域に由緒ある安産祈願所が2ケ寺も存在しているのは、帯解ならではの特色であるといえるでしょう。
<龍象寺の基本情報>
住所:奈良県奈良市柴屋町177
電話番号:0742-61-6720
アクセス:JR帯解駅より徒歩約1分
写真:乾口 達司
地図を見る古代以来の安産祈願所が存在することからもわかるように、帯解は古くから開けた地でした。そのことは付近に数多くの古墳が点在していることからもうかがえます。
写真は国道169号線の東側に残るベンショ塚古墳。5世紀前半に造られたと考えられている前方後円墳で、墳丘の全長は70メートル、周濠部分までふくめると106メートルもあり、帯解周辺の古墳のなかでは最大の規模を誇ります。
<ベンショ塚古墳の基本情報>
住所:奈良県奈良市山町
アクセス:JR帯解駅より徒歩約8分
写真:乾口 達司
地図を見る田園のなかに残る土盛り。これも古墳?と思う方もいらっしゃるでしょうが、こちらは「永井城」と呼ばれる中世城郭の土塁跡。
帯解の周辺には、ほかにも今市城や窪之庄城などの城郭・城館跡が点在しています。
<永井城跡の基本情報>
住所:奈良県奈良市北永井町
アクセス:JR帯解駅より徒歩約10分
写真:乾口 達司
地図を見る帯解寺の北方にひっそり鎮座するのは「青井神社」。全国的にも珍しく疱瘡神をまつっています。
青井神社は、平安時代、絶世の美女といわれた小野小町の疱瘡をなおしたという伝説も有しており、帯解の地の知られざる一面を知るのに格好のスポットです。
<青井神社の基本情報>
住所:奈良県奈良市横井2-299
アクセス:JR帯解駅より徒歩約8分
写真:乾口 達司
地図を見る青井神社と並んで見逃せないのが、こちらの八坂神社。境内の一角には円満寺と呼ばれる小さなお堂が残されており、近代以前の神仏習合の名残りをとどめています。
写真:乾口 達司
地図を見るそんな八坂神社・円満寺でご覧いただきたいのが、写真の額。額には文字とともに何やら不思議な図形が描かれていますね。これは「算額」と呼ばれる数学絵馬。算額は江戸時代に発達した和算の問題やその解答を絵馬として奉納したもので、その解答を神仏に感謝するとともに、みずからの成果を多くの人に知ってもらうため、しばしば神社仏閣に奉納されました。
円満寺の算額(複製)は、1844年(天保15)、当地の源治郎によって奉納されたものですが、当時、この地に和算を得意とするものがいたということには驚かされます。1844年といえば、そろそろ文明開化の足音が聞こえつつあった時代。和算の才に恵まれた源治郎という人物、その後、どのような人生を歩んだのでしょうか。
<八坂神社・円満寺の基本情報>
住所:奈良県奈良市山町107
アクセス:JR帯解駅より徒歩約8分
写真:乾口 達司
地図を見る時間があれば、「圓照寺(えんしょうじ)」まで足をのばしましょう。
圓照寺は後水尾天皇の第一皇女・文智女王を開基とする門跡寺院。奈良市の法華寺、斑鳩町の中宮寺と並んで大和三門跡と呼ばれています。三島由紀夫の小説『豊饒の海』に登場する「月修寺」は圓照寺をモデルとしており、その第一部『春の雪』をお読みになっていれば、主人公の松枝清顕が月修寺に入った聡子を追い求め、帯解駅から人力車を走らせるシーンを思い起こす方も多いのではないでしょうか。
ただし、観光寺院ではないため、参拝が許されているのは、参道の部分までです。
写真:乾口 達司
地図を見る圓照寺のあたりまで足をのばすと、若草山や興福寺の五重塔を一望することができます。のんびりとしたよいところであることを実感されること、間違いありません。
<圓照寺の基本情報>
住所:奈良県奈良市山町1312
アクセス:JR帯解駅より徒歩約15分
いまではのどかな田舎の一集落のようにしか見えない帯解。しかし、そんな帯解がいかに奥深い歴史性を有した地域であるか、おわかりいただけたでしょうか。奈良を訪れた折、ご自身の足で帯解の地をのんびり散策してみてください。
2022年8月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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(2024/12/4更新)
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