写真:Hiroko M
地図を見るジークムント・フロイト(Sigmund Freud)は1856年生まれのユダヤ系オーストリア人。ウィーン大学の医学部を卒業後、パリ留学を経て、ウィーンにて開業。人間の精神や本性について研究を続けました。「コンプレックス」、「深層心理」、「無意識」等、私たちが日常生活で何気なく使う言葉の多くは、実はフロイトが最初に提唱した概念。フロイトの理論や考えが基礎となり、今日の心理学や精神医学が形成されています。
そんなフロイトは、82歳だった1938年に、ナチスによりウィーンを追われ、遥々ロンドンへ家族と亡命します。そして晩年を過ごす家として選んだのが、ロンドン北西部の閑静な高級住宅地ハムステッド(Hampstead)に佇む、レンガ造りの一戸建て。多くの友人の助けもあり、本や家具等の私物のほとんどをウィーンから運んでくることが出来ました。今日、フロイト博物館では、フロイトが存命だったころの書斎や図書室が、当時のままの状態で残されています。フロイトが実際にこの家に住んだのは1939年に亡くなるまでの僅か一年間でしたが、1982年までフロイトの家族は住み続け、書斎や図書室を維持し続けていたのです。ちなみに博物館としてオープンしたのは1986年。
写真:Hiroko M
地図を見る博物館の目玉は何と言っても、フロイトの数々の患者が横たわってきたカウチ(寝椅子)。書斎にあるこのカウチは、しばしば「世界一有名なカウチ」と言われます。フロイトは患者に、頭に浮かんでくることを自由に話させ(自由連想)、その内容を元に精神療法を行いました。ロンドンに移住してからも、何人かの患者を診ていたフロイト。正にこの場所で、精神分析は行われたのです。フロイトは、カウチの左側にある緑のベロア調の椅子に腰かけ、患者の視界から外れた状態で、自由連想に耳を傾けました。フロイトが提案したこの手法は、今日も心理カウンセリングの場で広く使われています。
ちなみにカウチを覆っているのは、ペルシャ絨毯。実は20世紀に入るまで、ヨーロッパにおいて高価なペルシャ絨毯を床に敷くのは稀で、壁に掛けたり、家具に被せるのが主流だったのです。
写真:Hiroko M
地図を見るフロイト博物館に来て、最も強烈とも言うべき光景は、書斎にある二千点以上に及ぶアンティーク・コレクション。古代エジプト、ローマ、ギリシャの他、中東や中国の骨董品が、書斎の隅々に飾られており、そこはまるで博物館の中の博物館。ほとんどがフロイト自身が、ウィーンの骨董屋で購入した物で、その価値は、超一級品からガラクタまでピンキリ。フロイトはなんと、心理学(精神医学)よりも、考古学の本を多く読むほど、古代文明に魅せられていたのです。フロイトは自らのアンティーク収集癖について言及したことはありませんでしたが、無意識的に、考古学を、「深層心理から記憶を掘り起こす行為」のメタファーとして使っていたのかも知れません。
フロイトは、ロンドンに越してきた時には既に上顎癌に苦しんでいました。最期は二階の寝室に行くこともなく、一階の書斎で過ごし、ここで静かに生涯を閉じたのです。
写真:Hiroko M
地図を見るフロイトは、心理学の領域のみならず、多くの文化人にも影響を与えました。シュールレアリズム画家のサルバドール・ダリも、フロイトを崇拝していた一人で、彼の絵画の多くは、フロイトが提唱した「夢分析」という、無意識を表面化させる手法を用いて描かれました。フロイト博物館の二階には、ダリが1938年にフロイトを訪れた際に描いた肖像画があります。(写真)ペンとインクで描かれたこの肖像画は、フロイトの迫りくる死を感じさせると言われています。
写真:Hiroko M
地図を見る博物館の二階には、児童精神分析家の第一人者として活躍した、フロイトの娘・アンナ・フロイトの部屋(写真)や、フロイトの肉声が聞けるドキュメンタリーを上映しているビデオ室もあります。また、エグジビション・ルームでは、フロイトに影響を受けた現代アーティストによるアート展示が定期的に行われています。アーティストがどんな形でフロイトの哲学を表現するか、是非チェックしてみて下さい。ちなみに、エグジビション・ルームは、かつてフロイトと妻マーサの寝室だった部屋にあります。
他にも、博物館の裏にあるガーデンに足を踏み入れることも可能。綺麗に手入れされた花壇もあり、癒しの空間です。館内を一通り見たら、入口で売られているコーヒーや紅茶を飲みながらガーデンで一休みしてみてはいかがでしょうか。フロイトも、体調の良い日は、よくこのガーデンで陽射しを浴び、愛犬と戯れていたそうですよ。
フロイト博物館の最奥にあるショップでは、フロイトや精神分析に関する参考書の他、お土産にちょうど良いグッズがたくさん。フロイトをモチーフにしたチョコレートやミント、夢分析用の日記帳やフロイト人形等、ユーモア溢れるセレクションです。ここで買うものは、ロンドンの他の博物館やお店では売られていないものばかりなので、楽しいですよ!
フロイト博物館は、心理学や精神分析に詳しくなくても十分楽しめる、刺激的な博物館。大英博物館やヴィクトリア&アルバート博物館のような巨大ミュージアムも良いですが、フロイト博物館のような小さな隠れ家的ミュージアムで、充実したひと時を過ごしてみてはいかがでしょうか。
【基本情報】
Freud Museum London
20 Maresfield Gardens
London NW3 5SX
Tel: +44 (0)20 7435 2002
Fax: +44 (0)20 7431 5452
Email: info@freud.org.uk
【開館時間】
水曜日から日曜日
12:00〜17:00
【入館料】
大人 £7
シニア £5
学生 £4
12歳以下無料
(館内は撮影禁止。今回は特別許可を得て撮影しております)
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(2023/12/7更新)
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