フランス映画「申告物なし」の舞台を訪ねるベルギー国境の旅

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フランス映画「申告物なし」の舞台を訪ねるベルギー国境の旅

フランス映画「申告物なし」の舞台を訪ねるベルギー国境の旅

更新日:2014/11/11 14:59

ウェリオン 佳子のプロフィール写真 ウェリオン 佳子 地球の営み(歴史民俗文化芸術)旅ライター

フランス映画「申告物なし」は、2010年に公開されたダニー・ブーン監督のコメディ映画です。日本語では未公開ですが、ヨーロッパ=日本間の国際線の機内でも放映された大ヒット作品です。

これは欧州連合(EU)として統一される前のベルギーとフランスの国境で、それぞれの入国管理局で繰り広げられる人間模様を描いたものです。撮影が行われたのは実際に国境の町であるシメイです。

北フランス生まれの監督による、限りなく実話に近いストーリー設定!?

北フランス生まれの監督による、限りなく実話に近いストーリー設定!?

提供元:「Rien à déclarer」ウィキペディア

http://en.wikipedia.org/wiki/Nothing_to_Declare_(f…

フランス映画「Rien à declarer(申告物なし)」は、北フランスのベルギー国境近くアルメンティエール出身の監督で、脚本家でもある才能豊かな俳優のダニー・ブーン(Dany Boon)によるコメディ作品です。映画の中では、主演のフランス人入国管理官を演じています。

一方相手役のベルギー人入国管理官を演じる、ブノワ・ポールヴールド(Benoît Poelvoorde)はベルギー・ワロン地域の首都ナミュール出身で現在も同市に暮らす、フレンチコメディ映画を代表する俳優です。

ストーリーは1993年、「コカイン(仏表記:Courquain、白表記:Koorkin)」という架空の国境にある隣同士の町を舞台に、フランスとベルギーの両入国検査官が、麻薬取締りのために協力してプロジェクトを立ち上げることから始まります。

初のフランス・ベルギー両入国管理局用の軽自動車に、それぞれ一人づつ選出されたのは、ベルギー側でチョコレート店の店員をしている女性ルイーズと恋に落ちた、気の弱いフランス人検査官マスィアスと、厳格なクリスチャンで代々フランス人を毛嫌いする、典型的な堅物ベルギー人検査官のルーベンでした。でも実は、マティアスの恋人ルイーズは、ルーベンの実の妹だったのです。

二人の恋の行方が、その後どうなったのかを紐解いてみると・・・たとえ2つの国に分かれ、お互いを目のかたきにしたところで、元々同国人であるフランス人とベルギー人は、所詮は兄弟ゲンカで意地を張り合っているようなもの。ひとつのプロジェクトを通して、最後はお互いに友情を育み、相手を認め合う・・・というストーリーです。

ナポレオンの敗戦で、国境が引かれた旧フランス。

ナポレオンの敗戦で、国境が引かれた旧フランス。

写真:ウェリオン 佳子

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この「Rien à declarer(申告物なし)」はコメディ映画ですが、このストーリーがなぜヒットするほど面白いのかというと、次のような近代の歴史的背景があります。

旧フランス領であったベルギー南東部のワロン地方は、1815年6月18日、ナポレオン率いるフランス軍が「ワーテルロの戦い」により、連合軍に破れ、オランダ支配の時代を経て北西部フランダース地域と共にベルギー王国を建国しました。

今でこそ炭鉱及び製鉄をはじめとする、重工業の衰退が指摘されるワロン地方ですが、シャルルロワやリエージュに代表される、北フランスからまたがる石炭ベルト地帯を抱えており、エネルギー資源が石油に代わるまでは、産業革命以降のヨーロッパにおいて活性を極めた地域でした。

イギリスに次いでベルギーが2番目に産業革命を成し遂げたのも、またベルギー王国として独立を成し遂げたのも、機械産業のみならず、第一次産業に適した豊かな資源を持つワロンの存在は大きかったのです。

19世紀以降、産業が急成長したベルギーでは、人手不足を補うために、政策としてイタリアを筆頭に西ヨーロッパ中から労働移民を受け入れており、現在でもシャルルロワやリエージュの工業地帯を中心に、その子孫達が自分達のアイデンティティを守りながら、ベルギー市民として暮らしています。

また、近年価格が高騰している石油や電気に代わるエネルギー資源として、より安価な石炭の需要が再び戻りつつある今、現在の観光産業に加えて、今後またワロン地域への注目が集まることが予想されています。

さらに歴史を遡れば、当時まだフランスであったワロン地域は、古くからギルドによる手工業が発達しており、ヴェルサイユ宮殿のモデルであるモダーヴ城も、ワロン地域にあります。ここからムーズ川の水路経由で、この地方特産の大理石と共に、それを扱う技術を持つ職人達が、ヴェルサイユ宮殿建設(特に特に基礎部分)に携わりました。

その名声により、後に北欧を含むヨーロッパ中から職人達が呼ばれ、大規模な城を造る技術が広がりました。だからこそ、声高に叫ぶことはなくとも、ワロンの人達は自分達の地域をとても誇りにしています。

ワーテルローでのナポレオン軍敗戦後、フランスから分断され孤立した地域であるワロンは、中世からの封建制度を残したまま、その後数度にわたる革命を経て、絶対王政を廃して共和制を布いたフランスとは、また違う歴史と文化的背景を歩むことになりました。

ベルギーのワロン地区やカナダのケベック州などでは、1815年に分断される以前のフランス市民として、古い時代のフランス語や料理を守り、また共和制に移行する前の封建的な考え方など、前進を重ねた本土とは異なるアイデンティティを持つために、少しづつお互いを理解できぬまま、今に至っている面があります。

ですが、やはり兄弟分であることに変わりなく、ベルギーのワロン地区では毎年約50の町で、フランス国旗を掲げ、ナポレオン軍の衣装を着て、フランス由来の自分達のアイデンティティを示す行進が現在でも行われています。将来、無形文化財として世界遺産に登録される可能性が充分にあるお祭りです。

厳しいカトリックの家に育ったベルギー人、マスィアスが通う教会。

厳しいカトリックの家に育ったベルギー人、マスィアスが通う教会。

写真:ウェリオン 佳子

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映画「Rien à declarer(申告物なし)」の中で、厳格なカトリックの家に育ったベルギー人、マスィアスが通う教会として描かれているのが、シメイの中心部にある「聖ピエールと聖ポール・コレジアル教会(St Pierre and Paul’s Collegiate Church)」です。

格式を表す総ブルー・ストーン造りの教会は、シメイ城と対をなすもので、古い部分は13世紀に建てられたものです。内部の美しい木彫の祭壇が印象的で、映画中、高貴で歴史の重みを感じさせる雰囲気で、主人公の持つ背景を浮かび上がらせています。

シメイ市民に愛される娯楽施設「カジノ」のカフェ。

シメイ市民に愛される娯楽施設「カジノ」のカフェ。

写真:ウェリオン 佳子

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映画中、日常風景の描写として使われているのが、シメイの中心部付近にある「カジノ」の1階にあるカフェです。店内は洒落た雰囲気ながらも、各テーブルにはカジノに使われるゲームが仕込まれている、遊び心いっぱいの大人のカフェです。

ここでは地元で有名なトラピストビール「シメイ」にあわせて、ダイス型にカットしたシメイ・チーズにセロリ塩をかけて食べるのがベルギー流。他にも必ず小さな菓子がついてくるベルギー流カフェや、ホット・チョコレートを表す「ショコラ・ショー」を頼んでみるのもおすすめです。

ちなみに国境をフランス側に越えた途端、カフェのカップサイズが半分になり、一切ミルクが付いてこないので、ミルクが欲しい場合には「カフェ・オ・レ」と忘れないように注文しなければなりませんが、ここではまだ大丈夫!

トラピストビール「シメイ」のサイン入り記念グラスが見られる!

トラピストビール「シメイ」のサイン入り記念グラスが見られる!

写真:ウェリオン 佳子

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シメイビール発祥のスクールモン修道院そばにある、シメイビールの公式ホテル&レストラン「シメイ・オーベルジュ・ドゥ・ポトゥプレ(Auberge de Poteaupré)」では、映画「Rien à declarer(申告物なし)」の監督で、主演も勤めたダニー・ブーンや、俳優のブノワ・プルヴォードゥ等のサインが入った記念グラスを見ることができます。

シメイを訪れる際は必見の場所なので、立ち寄った際には是非忘れずにチェックを!

ベルギーの複雑な歴史を、おもしろおかしく訪ねる旅。

映画「Rien à declarer(申告物なし)」は、フランス映画界の第一線で活躍する北フランス出身の監督ダニー・ブーンと、フランチ・コメディ界の天才と評されるベルギーのワロン地域出身のポールヴールドという、いわゆる地元出身の二人が地元への愛を込めて演じている、貴重で記念的な作品です。

撮影現場となったシメイの町は、元々公国でありながらも現在はベルギーの一部となったという複雑な歴史があり、ヨーロッパの中心に位置するこの地域が抱える政治的ジレンマを、双方の市民レベルで表現した傑作です。

この映画の舞台シメイを追うだけで、フランスのコメディ映画界とヨーロッパの歴史の勉強ができ、しかも美味しい本物のトラピストビールが味わえます!

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/10/10 訪問

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