写真:Naoyuki 金井
地図を見る甲州の武田家に仕えていた武士であったと言われる朝倉氏は、江戸時代の1700年代に武蔵国渋谷に定住しました。江戸末期には水車を所有し、この水車の収益で明治以降、渋谷周辺の土地を買い集めて大地主になります。
その後、養子となった朝倉金蔵が精米業を営み、朝倉家を更に発展させるのです。
その金蔵の孫である朝倉虎治郎は、大正から昭和にかけて東京府議会議長や渋谷区議会議長などを歴任し、大正8年に朝倉家の本宅として、この地に邸宅を建てたのです。
この邸宅が現在の「旧朝倉邸」で、凝ったデザインの部屋と、この建造物と一体となった回遊式庭園の作りだす大正ロマンの香りを漂わせています。
都市化の進んだエリアである代官山に位置していながら、この知られざる空間が、若い世代の方たちに新鮮な感動と癒しを与えているのです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る旧朝倉邸の見どころの一つは何と言っても大正期の建築で、ほぼ全室が畳敷きで屋根は瓦葺き、外壁は下見板張という典型的な和風大邸宅です。
その中で用途に応じた部屋ごとのデザインの変化は見逃せません。
特徴的なのは玄関の両サイドの部屋で、右手の応接間は唯一の洋間で、来客用に洋式接待ができる最低限の洋間で、左手の応接間や2階は、正式の接待を行うために書院造りの和室となっています。
そしてデザインを凝らした欄間や襖、更に板戸の絵画なども見られ、決して華美ではなく落ち着いたたたずまいの中の一輪の花のような美しさを解き放っているのです。
凛とした空気の木造建築に佇めば、極上な大正時代の息吹が感じられるはずです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るもう一つの見どころが癒しの空間とも言うべき座敷で、旧朝倉邸では玄関から離れた、西側の先にある三つの座敷から構成される「杉の間」です。
一間は書院風造りですが、二間はくだけた趣の数寄屋風座敷となっています。更にこの数寄屋風座敷の一間は、杉の木目をテーマとした、「杉の間」の由来ともなったデザインで、杉材の木目を“板目”で見せる一風変わった座敷なのです。
当時、これだけの杉材を使用するには相当な財力が必要とされたそうで、当時の朝倉家の名家ぶりが偲ばれます。
しかしながら、これだけの杉の間を虎治郎はその力を誰彼にひけらかすことはなく、ここでは私的な客を接待し、あくまで趣味的なゆとりを演出しているのです。
この他にも、ガラス戸を滑らせるレールに、木製のレールを使用し、随所に隠れた贅沢を楽しんでいたのです。
遊び心たっぷりの座敷で、まったりとしたひと時を過ごすのもまた格別です。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る回遊式庭園は、文字通り庭園内をぐるりと巡って楽しむもので、この庭園は3パートに分かれています。
玄関前の前庭、敷地南側に広がる主庭、坪庭の中庭で、特に主庭は崖にあることから、斜面を利用して借景を取り入れ、かつては富士山や目黒川などの田園風景が望めるような構図だったのです。
現在それらの借景を見ることはできませんが、主屋からの額縁に入った絵を見るような庭園の景観や、各種の石灯籠や景石などは見逃せません。
植栽は、アカマツを中心にカエデ類を配していることから、春にはツツジ、秋には隠れた紅葉の穴場として親しまれています。
まさに代官山とは思えない緑あふれる光景は、公園とは違った趣のある一服の清涼剤となることでしょう。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るこのような名邸宅を残した朝倉家でしたが、第二次大戦後は、所有していた土地の大部分を失い、本宅も相続税支払いの為に売却を余儀なくされました。
そして手元に残った土地を活かした不動産経営を検討していた朝倉家は、1967年に建築家・槇文彦氏と出会い「代官山集合住宅計画」を立案させたのです。
当時、このエリアは住居専用地区だったため、店舗の開設は認められていなかったのですが、行政との交渉の末、住居と店舗が混在する建造物を実現させたのです。
これが現在の「ヒルサイドテラス」で、この建築空間と、ここで実施される「ギャラリー」「ホール」「フォーラム」などのプログラムが“お洒落な街・代官山”の始まりで、その後の代官山成立に繋がっていくのです。
この代官山の発展と並行して戦後、売却された旧朝倉邸は、渋谷区で管理され、平成16(2004)年、重要文化財に指定されました。
名家・朝倉家のルーツといえる大正期の名建築「旧朝倉邸」と、バブルによって急速な発展を進めた都会にあって、緑に覆われた代官山の環境を生かした緩やかな開発で進められた「ヒルサイドテラス」は、まさに代官山の発展の歴史そのものと言っても過言ではありません。
代官山でショッピングやデートの合間に、ちょっと訪れて非日常空間での癒しと“歴史”を感じるのも楽しいものです。
代官山の穴場スポット「旧朝倉邸」が気になった方は、是非訪問してみてください。
重要文化財 旧朝倉家住宅
【開館時間】
午前10時〜午後6時(11〜2月は午後4時30分まで)
【休館日】
月曜日(祝日の場合は直後の平日)、年末年始(12月29日〜1月3日)
【観覧料】
一般100円、小中学生50円、年間観覧料500円
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(2024/10/16更新)
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