天井の木札に注目!国宝三重塔を擁する兵庫県加西市の一乗寺

天井の木札に注目!国宝三重塔を擁する兵庫県加西市の一乗寺

更新日:2015/01/07 18:21

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
西国三十三所第26番霊場ともなっている加西市の一乗寺は、兵庫県屈指の古刹。日々、多くの巡礼者が一乗寺を参拝していますが、その信仰に裏打ちされた豊かな歴史性にふさわしく、県内唯一となる国宝の三重塔を有するなど、一乗寺は文化財の宝庫としても必見のスポット。今回はさまざまな魅力をそなえた一乗寺をご紹介しましょう。

開祖・法道仙人はインドから飛来!?山岳信仰と深い関わりを持つ一乗寺

開祖・法道仙人はインドから飛来!?山岳信仰と深い関わりを持つ一乗寺

写真:乾口 達司

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一乗寺の開祖は法道仙人。仙人は紫雲に乗り、遠くインド(天竺)から飛来したとされています。その霊力に感服した孝徳天皇が、白雉元年(650年)、仙人に命じて建立させたのが一乗寺です。ちなみに、兵庫県内には法道仙人によって開かれたという伝承を持つ寺院が数多く存在しており、その多くが山岳信仰と深い関わりを持っています。実在の有無はともかくとしても、古代、「法道仙人」の名によって象徴される共通の信仰集団が当地の山岳一帯で幅広く活躍していたことが推察できますね。

山岳信仰と深い関わりを持つ法道仙人。一乗寺もその関わりと無縁ではありません。そのことをうかがわせるのが、この写真。本堂から眼下の三重塔を撮影した一枚ですが、ご覧のとおり、三重塔は切り立った崖と崖のあいだに残るわずかな平地に建てられています。それは本堂も同じ。本堂も崖にせり出した床を多数の建築部材によって支える懸造(がけづくり)の構造となっており、一乗寺が意図的に山の斜面に造られた寺院であることがわかります。このような伽藍配置をくわだてた法道仙人あるいはその名によって象徴される集団とは、いったいいかなる人たちだったのでしょうか。興味がわいてきませんか?

天井に注目!無数の木札が巡礼者の願いを表わす本堂外陣

天井に注目!無数の木札が巡礼者の願いを表わす本堂外陣

写真:乾口 達司

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国の重要文化財に指定されている本堂の内陣には、本尊・聖観音菩薩が安置されています。本尊は銅造の立像で像高は70センチメートルあまり。白鳳時代から奈良時代にかけて造られたと考えられている秘仏で、近年では2009年から2010年にかけて御開帳されました。

ご本尊にお参りしたら、参拝者が集う外陣の天井を見上げましょう。木片のようなものがそこかしこに貼り付けられているのが、おわかりになるでしょう。これはかつての巡礼者が打ち付けた木札(納札)。現在の納札は紙製ですが、かつては安価な木札が使われており、巡礼者は一乗寺に参拝した証として、木札を天井に打ちつけたのです。しかし、天井はご覧のように高く、肩車をしてもらったとしても決して手は届きません。昔の人はどうやって天井に貼り付けたのでしょうか。不思議ですね。

美塔として名高い国宝の三重塔

美塔として名高い国宝の三重塔

写真:乾口 達司

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崖の中腹に立つ三重塔は承安元年(1171)の建立。現在、国宝に指定されています。国宝に指定されている三重塔としては、奈良県の法起寺・薬師寺・当麻寺(東西2基)・京都府の浄瑠璃寺のものに次いで6番目の古さを誇ります。いいかえれば、奈良・京都以外では、現存する最古の三重塔なのです。

写真はその初層部分を撮影したもの。ご覧のとおり、組物(木組)は外側の斗(ます)が三段構造になった「三手先」(みてさき)となっています。軒上には「蟇股」(カエルの足のような形をした建築部材)も取り付けられていますが、蟇股が装飾としてもちいられるようになった最初期の事例として、こちらも必見。また、逓減率(塔身が初層から上層に向かうにつれて幅が小さくなっていく率)が大きいために安定感のある美しさをかもし出しており、古建築マニアのあいだでは「美塔」として高い評価を受けています。その美しさを実際にご自身の目でお確かめください。

お寺に神社?本堂裏手に残る護法堂

お寺に神社?本堂裏手に残る護法堂

写真:乾口 達司

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写真は本堂裏手の高台に建つ護法堂。鎌倉時代後期に建てられたと推定されており、現在、国の重要文化財に指定されています。しかし、この建物、一見、神社の本殿のように思えませんか?それもそのはず。護法堂神社建築に多い「春日造」(かすがづくり)と呼ばれる建築様式で建てられているのです。その様式から、神仏習合の名残りをとどめた古建築であるといえるでしょう。

境内にはほかにも室町時代に建てられた妙見堂や弁天堂(いずれも国の重要文化財)などが点在しており、一乗寺が古建築の宝庫であることを教えてくれます。

年2回の限定公開!寺宝を収蔵する宝物館

年2回の限定公開!寺宝を収蔵する宝物館

写真:乾口 達司

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写真の建物は宝物館。一乗寺を代表するもう一つの国宝として名高い『絹本著色聖徳太子及天台高僧像』(10幅)は博物館に寄託されているために拝観できませんが、それ以外の寺宝が多数展示されています。そのなかには秘仏本尊とよく似た銅造観音菩薩立像や法道仙人立像なども展示されており、仏像マニアには必見のスポット。

ただし、公開は毎年4月4日と11月5日の年2回のみ。それ以外に拝観する場合は事前の許可が必要となるため、お寺に問い合わせてみましょう。

おわりに

一乗寺がいかに魅力的なお寺か、おわかりになりましたか?山岳信仰と関わりを持つというイメージのせいか、不便な山中にあると思い込んでいる人も多いでしょうが、山陽自動車道加古川北インターからだと車で10分ほどのところに位置しているため、アクセスも意外と快適。西国三十三所の巡礼者はもちろん、古建築好きや仏像ファンの方々も足を運び、一乗寺の豊かな歴史性に触れてみてください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2015/01/04 訪問

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