有名な日本庭園となるとどこも賑わっていて、庭園について深く学んでみたいという人も多いと思います。その第一歩となる庭園の分類や形式を表す「○○庭園」や「○○式庭園」という言葉ですが、これが意外に多いのです。庭園には「何を表現しているか」「何を使って表現しているか」「どのように鑑賞するか」のそれぞれを示す形式の名称があります。日本庭園鑑賞の初歩として、庭園がどう分類されるかをきっちり理解しましょう。
日本庭園は芸術作品なので、まずは「何を表現しているのか」が重要です。庭園が全体として何を表しているかの分類として以下の3つの用語を紹介します。
□ 浄土式庭園
□ 蓬莱式庭園
□ 縮景式庭園
浄土式庭園は極楽浄土を表現した庭園で、阿弥陀仏信仰によって極楽浄土への往生を願う浄土思想に基づいています。池と阿弥陀堂をセットにして、大海を越えて浄土に至るという情景を表現した庭園です。平安後期から鎌倉時代にかけてよく造られています。有名な平泉の毛越寺庭園の解説をすでに記事にしているので、参考にしてみて下さい。毛越寺庭園の他には「白水阿弥陀堂境域庭園」(福島県いわき市)、「称名寺庭園」(神奈川県横浜市)、「浄瑠璃寺庭園」(京都府木津川市)、「平等院庭園」(京都府宇治市)など。
蓬莱式庭園は蓬莱神仙思想に基づいた庭園です。蓬莱神仙思想というのは不老不死を願う道教的な思想です。不老不死の仙人が住む蓬莱山(蓬莱島)や、長寿の象徴である鶴や亀をモチーフにした島(鶴島、亀島)で構成されるのが蓬莱式庭園の特徴です。蓬莱山、鶴島、亀島を表す石組はいろんな庭園に取り入れられますが、それらが主役となった庭園を「蓬莱式庭園」や「蓬莱形式の庭園」などといいます。「頼久寺庭園」(岡山県高梁市)、「金地院庭園」(京都府京都市)、「安養院庭園」(兵庫県神戸市)など。
浄土式庭園や蓬莱式庭園は想像上の景色を再現した庭園ですが、実在する景色を再現した庭園が縮景式庭園です。もともと縮景というのは、荒磯や州浜の景観などの自然景観の一般的なイメージを庭園内に縮小して再現する手法でしたが、桃山時代以降は実在する景勝地を模する手法として、いろんな庭園で使われてきました。縮景で表現される対象としては、松島、天橋立、富士山、西湖(中国浙江省杭州市)などがあります。縮景の手法自体はいろんな庭園で使われていますが、主として縮景で構成される庭園を縮景式庭園といいます。縮景式庭園はあまり多くないですが、「縮景」が重要な言葉なので紹介してみました。代表的なものとして「縮景園」(広島県広島市)、「松濤園」(福岡県柳川市)など。
3つの用語を紹介してみましたが、全ての庭園がこのどれかに分類されるわけではありません。総合的な庭園もありますし、禅の思想に基づいた庭園のように、特に決まった言葉のない形式もあったりします。
写真は蓬莱式庭園の「頼久寺庭園」(岡山県高梁市)の鶴島石組です。中央の高い石が鶴の羽を表しています
「枯山水庭園」という言葉はよく耳にすると思います。水を使わずに砂や石で水を表現するのが枯山水ですが、このように何を用いて表現されているかというのも日本庭園では重要です。この分類では3つの用語を押えて下さい。
□ 枯山水庭園
□ 池泉庭園
□ 築山林泉庭園
もともとは水のないところに石を据えることを「枯山水(かれせんずい)」といっていたのですが、後に水を使わない庭園を指す言葉として「枯山水(かれさんすい)」が使われるようになりました。枯山水と対照的なのが水を使う庭園ですが、流水を使ったり、池に水を溜めたりと水の使い方にもいくつかあります。最も多いのが池に水をはる形式で、この形式の庭園を「池泉庭園」といいます。江戸時代の大名庭園はたいてい大きな池を中心にしているので、広い意味での「池泉庭園」に入るのですが、池の他に茶室・林・田園などいろんなものを有機的につなげたりすることが多く、こういう庭園は「築山林泉庭園」とよばれます(「築山泉水庭園」とも)。
ここに載せる写真は「粉河寺庭園」(和歌山県紀の川市)にしてみました。水を使わない庭園なので、枯山水庭園です。本堂前の段差に普通であれば石垣を築くんですが、豪快な石組にしてしまったという立地が変わった庭園です。
前述の「粉河寺庭園」は特殊な例ですが、多くの庭園は廻遊式庭園か観賞式庭園のどちらかに分類されます。これはどのように鑑賞するかによる分類です。この分類に関連して廻遊式・観賞式の2つと、さらに2つの用語を紹介します。
□ 観賞式庭園
□ 廻遊式庭園
□ 舟遊式庭園
□ 露地庭園
「観賞式庭園」というのは方丈や書院などの建物の中から鑑賞するタイプの庭園です。最初にお見せした「頼久寺庭園」はこのタイプの庭園です。建物の中から鑑賞というのにもいくつかあって、特定の一点から鑑賞する庭園は定視式、座ってみる庭園は座観式といったりします。一方、「廻遊式庭園」というのは庭園内を歩きまわって様々な位置から観る庭園です。廻遊式庭園と同様にいろんなところから観る庭園ですが、歩かずに池に浮かべた舟から観る庭園は「舟遊式庭園」といいます。舟遊式庭園は平安時代まで貴族の邸宅などで造られていましたが、中世以後はほとんど造られてなく数も少ないです。舟遊式庭園の古い遺構として、京都の「大沢池」が有名です。鑑賞法による分類はこの3つとするのが通常ですが、ここでは「露地庭園」も加えておきます。茶室まわりの庭園のことで茶庭ともいいますが、茶室へのアプローチの中で観る庭園ということになります。
写真は観賞式庭園の多賀大社奥書院庭園(滋賀県多賀町)。奥書院から観る庭園として造られています。たいていの観賞式庭園は観る建物と同じ高さを基準に造るものですが、この庭園は少し低い所に造られていて、見下ろして鑑賞するのが珍しい点です。
日本庭園の分類について、3つの分類法に基づいて説明してみました。一つの庭園に対して、「観賞式」で「蓬莱式」の「枯山水庭園」といろんな言葉で説明されて混乱したことがあるかもしれませんが、分類法が複数あることを押さえておくと、すんなり理解できると思います。
さて、分類を知るというのは日本庭園入門の第一歩にすぎません。庭園鑑賞で大事なのは、各々の庭園に特徴的な技法がどのように活かされているかを感じとることだと思います。石組、地割、植栽といった庭園の要素の中にいろいろな手法があります。また、時代ごとの表現方法にも違いがあって、訪れる度に何かおもしろいことが発見できると思います。苔や花が有名な庭園だからといってそれだけ見て帰るのはもったいないですよ。日本庭園は植物園ではないですからね。
このスポットに行きたい!と思ったらトラベルjpでまとめて検索!
条件を指定して検索